入門・重金属問題―その2
「水銀」について
常任幹事 藤原 寿和
前回からはじまったこのシリーズで今回は水銀を取り上げたいと思います。前回の鉛も歴史的にはたいへん古くて新しい問題ですが、水銀も鉛同様古くて新しい問題といえます。被害との関連では、水銀は鉛以上に日本の内外で人口に膾炙された物質であるといってもいいかと思います。それは「水俣病」「ミナマタ」として全世界的に知られることになった有機水銀中毒事件の原因物質であったためです。
●水銀の歴史
水銀は古代においてはその特性や外見から不死の薬として珍重されてきました。特に中国の皇帝に愛用されており、それが日本に伝わり飛鳥時代の持統天皇も若さと美しさを保つために飲んでいたとされます。また、東大寺の大仏像の金鍍金を行うのに金と水銀のアマルガムを大仏に塗った後、水銀を蒸発させて行われました。一説には、この際起こった水銀汚染が平城京から長岡京への遷都の契機となったといわれています。また、水銀の硫化物は辰砂(しんしゃ)と呼ばれ、朱色の顔料として用いられてきました。始皇帝を始め多くの権力者が命を落としたといわれており、中世期以降、水銀は毒薬として認知されるようになりました。
世界中において有機水銀はかつて農薬として広く使われ、1970年代にイラクでは、メチル水銀で消毒した小麦の種を食用に流用したパンによって有機水銀中毒で400人以上が死亡する事件がおきた。そして、その毒性から現在は使用が禁止され、代わりに無機水銀などが使われるようになりました。
日本で水銀が工業的に使用されるようになるのは明治期以降で、無機化学工業の進展や農薬として使用される有機水銀化合物の生産に伴って、労働者の水銀被曝問題や環境汚染問題がクローズアップされるようになりました。その頂点に立ったのがチッソによるアセトアルデヒドの生産に触媒として使用した無機水銀(硫酸水銀)に由来するメチル水銀汚染問題でした。この問題を境に、日本では急速に水銀の生産・使用の制限が行われるようになり、現在では一部の用途でのみ使用されているだけです。
●水銀の用途
水銀は表に示すように、歯科アマルガムや各種金属とのアマルガム利用や、化学反応の際の触媒や農薬をはじめ無機薬品、気圧計や温度計、体温計などの計測機器、電池材料などに主に用いられてきました。
しかし、現在では蛍光灯や電気スイッチなど一部の利用にとどまっています。
その水銀需要は、表に示すとおり、1990年代まで水銀の主たる需要先であった無機薬品(1990年需要量:17,361kg)向け及びアマルガム(1990年需要:2,523kg)向けの需要が、記環境規制の強化により、稲作の特効薬として使われてきた水銀農薬が製造禁止、苛性ソーダ用電極、塩素電解用電極、塩化ビニール用触媒としての水銀が製造転換に追いやられこととなり、現状での需要は「0」となっています。
国内の主要需要分野である電気機器及び電池材料の需要量については、ここ数年総量ベースで2,300kg程度と大きな変化はなく、電気機器向け需要が増加傾向にあるのに対し、電池材料向け需要は減少傾向を示しています。また2001年まで国内需要の20〜30%を占めていた計量器向け需要は、年々減少を続け2006年の需要量は「0」となりました。
●水銀の毒性
純粋な金属水銀は、他の重金属と同様に、蓄積されることによって毒性を発揮します。水銀の化合物は単体の水銀よりもはるかに高い毒性を持つことが知られ、水銀を含む有機化合物では特に顕著です。例えば、ジメチル水銀は数分の1ミリリットルの量でも死に至る神経毒があります。
水銀は中枢神経・内分泌器・腎臓などの器官に障害をもたらし、口腔・歯茎・歯にも損傷を与えます。高濃度の、もしくは低濃度であっても長時間水銀の蒸気にさらされると、脳に障害を受け、最終的には死に至るといわれています。水銀およびその化合物は、特に胎児や幼児に対して有毒です。妊娠した女性が水銀に被曝した場合、発生障害を持った子供が生まれることがあるとされています。
●水銀削減をめぐる国際的動向
国際的には水銀は国連環境計画(UNEP)が2001年から地球規模での水銀汚染に関する活動(UNEP水銀プログラム)を開始し、以下のような課題があげられています。
○国内、地域及び地球規模での、緊急対応と長期対策を可能な限り早期に着手すべきである。
○管理理事会は、すべての国に対し、これらの目標を定めるとともに、必要に応じて、曝露を被った人々や生態系の特定や人為的な水銀の放出を減少させるという観点から国内対策を講じるよう要請する。
○UNEPに対しては、水銀汚染に関する対応策を取ろうとする国への技術的な支援及びキャパシティービルディングを開始するよう求める。
UNEPでは、この要請に応え、来年中には水銀プログラムを策定することになっています。

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