重金属問題連続セミナー 第3回報告
重金属汚染と毛髪ミネラル
―子どもたちの心身の健康のために―
講師:銀座サンエスペロ大森クリニック院長 大森 隆史先生
連続セミナー第3回目は、毛髪に含まれる有害金属と子どもの健康問題、特に自閉症や学習障害、の解明と治療に取り組んでこられた大森隆史先生にお話していただきました。有害金属の毒性についての細胞レベルでの説明はかなり難解な部分もありましたが、参加者の理解への熱意があふれているセミナーでした。
解毒学―デトキシコロジーを目指して
有害金属や有害化学物質等への取り組みは、現在、毒物学で止まっており、毒性を明らかにし、環境リスクを評価して死亡率やハザード比を明らかにするに止まっている。現在進行しつつある有害金属(毒物)による子どもたちの健康異常や発達障害への認識や治療への解決策が現代医学では見出せていない。身体症状を改善・治療する(本当の意味でのデトックス=排泄による)科学としての解毒学(Detoxicology)が日本では成立していない(成立できない)と大森先生は言う。
多動の子どもたちは、治療されていく過程で「自分は動きたくなかった」と声を上げるという。多動や注意欠陥といわれる症状は、固定された疾患ではなく、脳内の問題であり改善の余地がある。多動や発達障害などの主たる原因は、生まれた時点ですでに有害金属に汚染されているからである。またこれらの障害のもう一つの背景には遺伝的差異が関係することも分かってきているが、どちらも治療によって症状の改善は可能である。
環境中の有害金属の遍在―人体への慢性的な蓄積
ある金属(ミネラル)が毒性を持っているということは、ダイオキシンなどの化学物質も同様であるが、多くの場合、これらの金属は生命進化の過程で体内の構成成分や代謝反応に使われなかったため、人体内にそれらの金属への解毒機能が備わっていないからである。18世紀の産業革命以降、人間の活動によって地殻中にあったさまざまな金属が採掘され利用されていく中でこうした金属も環境中に放出されてきた。特に過去数十年は活発な資源開発と産業活動によって環境中の有害ミネラルは急激に増加しつつある。
たとえば、1500年前のカナリア諸島の人々と現代人の骨に含まれるカドミウムと鉛の濃度を比較すると、カドミウムは約6倍、鉛は約7.5倍にもなる。その結果、私たちの体内にはさまざまな有害金属が微量ながら慢性的に蓄積していて、さまざまな健康被害が出ている。こうした健康被害は、水銀によるヒアルロン酸の合成阻害による肌荒れやしわなど、ミネラルの種類や濃度そして遺伝的背景によって多様な症状として顕在化してきている。しかも、現在、100人に1人の割合で障害を持った子どもが生まれている。
有害金属による細胞機能のダメージ―カルシウムポンプ
生命を考えるには先ず生命の単位である細胞レベルで考えることが重要であり、有害金属による子どもたちの異常や健康被害を考える時も、当然、細胞レベルで考えることが出発点であると大森先生は説く。
生体の60兆個の細胞を円滑に働かせるための信号伝達には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどさまざまなミネラルのイオンが使われている。一般にイオンの濃度の低いところから高いところへイオンが運搬される場合(濃度の高低に逆らう場合)エネルギーを必要とし、その運搬の働きをポンプという。ポンプの働きは細胞膜の特殊なタンパク質によっておこなわれている。
最も広範に使われるのがカルシウムイオンで、カルシウムポンプによってカルシウムイオンの運搬がおこなわれる。その一つである筋肉細胞の場合、筋収縮はカルシウムイオン(以後、単にカルシウムと表記する)によって制御されている。たとえば筋肉では、筋小胞体と呼ばれる組織がありカルシウム貯蔵庫になっている。そこからカルシウムが筋肉細胞中に放出されると収縮が起り、次にカルシウムポンプを使って筋肉細胞からカルシウムが排出されると弛緩が起る。
鉛や水銀が身体の細胞の働きを阻害するメカニズムは次のように説明できる。体内に取り込まれた重金属、たとえば水銀は、このカルシウムポンプを構成するタンパク質、特にタンパク質の成分であるアミノ酸のなかでイオウを含むアミノ酸(SH基をもつ)に結合し、カルシウムポンプの働きを阻害する。また、鉛は、このポンプを働かせるために必要な、体内のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)に結合し、カルシウムポンプにエネルギーを供給できなくさせることによって、やはりこのポンプが働かなくなる。
つまり鉛や水銀が細胞膜を通過するカルシウムの運搬を阻害することによって、細胞内にカルシウムが満杯になり、細胞機能の低下が起こり、さまざまな異常が起る。実際に母親の毛髪の水銀濃度が高いと乳児のカルシウムポンプの活性が低下することが明らかにされている。
脳内のカルシウムポンプ
大脳の前頭前野で、感情や表現を調整している扁桃体、そして記憶をつかさどっている海馬の各細胞で水銀や鉛によってカルシウムポンプの機能が阻害されると、細胞内にカルシウムが蓄積される。また、ある遺伝子に変異がある場合、体質的に鉛を蓄積しやすくなり、扁桃体や海馬の細胞内にカルシウムが同じように蓄積される。その結果、扁桃体や海馬の細胞機能が円滑に進まなくなり、神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンを介して、不安感など情動のコントロールができなくなったり、記憶・学習力の低下が起ったり、行動の活発化や攻撃性が起こったりするという。
有害金属―水銀、鉛、ヒ素、カドミウム、アルミニウム
カドミウムは鉛とともに骨に沈着し骨粗しょう症を起こす。日本の米の含有カドミウム量はかなり高く、玄米では糠の部分にカドミウムが多く含まれる。また、鉛は、大森先生の毛髪検査値解析によって、母親と子どもの間に相関関係が示唆された。鉛は、鉛管が使われていることにより水道水が汚染源の可能性もある。またアルミニウムも水道水が汚染源の一つであると考えられるが、日本では基準値がない。
水銀については、現在、中国などの発展途上国による石炭火力発電によって環境中に大量に放出され、海洋の水銀濃度が上昇し、魚の水銀濃度も上昇しているといわれる。また、ヒ素は海底火山から出ていて海水中に含まれ、海藻そして魚に含まれる。水銀は、ワクチンの殺菌作用のために使われるなど子どもの健康に影響を与えている可能性がある。
(文責:森脇靖子) |