ニュースレター 第51号 (2008年4月発行)
ピッツバーグで環境法を学ぶ
米国ロースクール留学体験記

 

国民会議常任幹事 橘高真佐美

クラス旅行で、首都ワシントンD.C.へ。アメリカ最高裁判所の前で。(筆者は最前列左から4番目)

 ピッツバーグは、ペンシルバニア州の西部に位置し、かつては鉄鋼の町として栄えたことがよく知られています。最近では、大学の町、医療の町などと言われますが、桑田真澄投手が最近まで所属していた大リーグのパイレーツを思い浮かべる方もいるかもしれません。
 私は、現在、ピッツバーグ大学のロースクールでのLL.M.という外国人法律家向けの修士課程に在籍し、アメリカの環境法を学んでいます。一般的に、アメリカのロースクールは3年の専門職課程で、1年目に基本的な法律を学び、2年目、3年目で応用として理論的な科目や実務的な科目を履修します。ピッツバーグ大学では、LL.M.の学生は、原則として、1年生の科目でも上級生の科目でも、自由に授業を選択し、アメリカ人学生とともに授業を受けることができます。環境法に関するものは、すべて応用科目として2年目、3年目の学生に向けて開講され、「環境法(全般)」「環境法クリニック」「野生生物保護」「有害物質と不法行為」「環境訴訟」「環境政策」「地球温暖化と法」など、いろいろなコースが用意されています。
 たとえば、「環境訴訟」は現役の弁護士が担当するとても実務的な授業です。ある日の課題は、有害化学物質を川に誤って流出させた企業と米国環境庁の間で、事故に対する罰金の金額について交渉するという学生間のペアワーク。事前に渡される細かい状況設定や法律、実際に米国環境庁が公表する罰金ガイドラインなどを参考に、学生は事故を起こした企業か環境庁の代理人として準備をします。私は、企業側の弁護士を担当することになったので、罰金額を少なくしてもらうということを念頭に法律やガイドラインを読み込むというオーソドックスな方法で準備をし、授業に参加しました。
 模擬交渉の後に、各ペアが交渉の過程や結果を報告し、指導教員が講評します。その中で、交渉の際の自分の視野の狭さや無意識的な思い込みに気づかされます。たとえば、私の交渉の目標は、「罰金額を少なくしてもらう」ことでした。これは、日本企業での勤務経験がある私にとっては、(少なくとも表面的にであっても)行政は企業を指導する立場という観念がある上に、事故を起こしたという事実を考慮すると、どちらかというと企業としては罰金額を少なくしてほしいとお願いする立場にあると考えたからです。しかし、アメリカ人学生たちには、そのような感覚は一切なく、罰金額に関して合意に至らない場合には、裁判所という第三者の判断を仰ぐということを前提に、企業と行政は完全に対等、あるいは専門分野である環境については企業の方が行政より詳しいと考え、強気の交渉をする学生が多かったようです。
 また、交渉の内容についても、ただ単に罰金額の引き下げを要求するのではなく、罰金を減らす代わりに地元地域のための長期的な環境保全プロジェクトへの資金を提供し、それをニュースとして報道機関に発表するという加点主義的な方針で合意をしたペアもいました。この点についても、日本企業ならば、事故を起こしたという事実に鑑み、仮に地域に貢献する事業を新たに行うことを決定したとしても、なかなか全面的に広報活動の素材とするという方向にはならないように思います。企業と行政の関係や文化的志向の違いを実感させられる課題でした。このように、毎回、小さな発見を積み重ねながら、アメリカの環境法を学んでいます。

環境法サークルの仲間と(筆者は右から3番目)

 

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