ニュースレター 第51号 (2008年4月発行)
環境省が6万人規模、12年間の出生コホート調査を計画している

国民会議常任幹事 松崎 早苗

 去る2月14日、環境省が平成20年度から調査に着手するという「小児環境保健疫学調査」の概要について聞きに行った。環境省保健部環境安全課環境リスク評価室が担当部署である。国民会議側からは立川代表、中下事務局長のほかに4名が参加した。
 これまでに2回の検討会と4回の懇談会を経て事務局案をまとめて財務省と折衝した結果、小児の環境保健に関する大規模疫学調査の重要性が認識され、平成20年と21年をフィージビリティ・スタディとしてスタートできる見通しとなったという。その後本格的な調査に入るという。その調査内容の設計に関して説明を受けた。計画は「出生コホート調査」と呼称される。検討会資料と懇談会記録は先般大宮での環境ホルモン国際シンポジウムで配布された。(検討会の議事録、欧州の調査をまとめたものなどが下記の環境省のホームページで見られる)
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/index.html
 まず、背景には1997年に8カ国環境リーダーが出した「マイアミ宣言」がある。子どもは環境に対する脆弱性から特別に保護する必要があるという合意宣言である。鉛曝露、飲料水中の微生物、大気、タバコ、環境ホルモン、気候変動の影響などを特に指摘した上で、子どもが置かれた状況に対応した特別なアセスメントと基準の設定が求められた。それに対処する目的で設計されたコホート調査である。
 国内で子どもの環境保健疫学調査は、北海道グループ(代表 岸秀子)と東北グループ(代表 牛井邦彦)がスタートしているが、とくに前者は北海道産婦人科医会の協力を得て1.6万人と規模が大きい。これら、および、欧米諸国の前方コホート調査を参考に研究設計を行ったという(リストを最後に掲げた)。外国の例としてはアメリカが10万組の母子を21歳まで調査しようとしている。韓国でも500人規模の調査が始まったという。
 日本での規模は6万人。全国で協力拠点を6ブロックとし、それぞれ1万人規模とする。当初の計画では10年後に中間取りまとめをする予定なので、大体12歳あたりまで追跡することになる。参加してもらう母(子)には、妊娠がわかって病院を訪れた際にインフォームド・コンセントによって登録していただく。分析に必要な個人情報とアンケート調査、そして血液その他の生体試料の提供、その後12歳までの保健情報を提供していただく。発達、生育度を調べる様々なテストもありうる。具体的な質問項目などはこれから検討することであるが、血液など生体試料の保存(バンキング)制度を確立し、将来の検査に役立てる。が、12年間という期間や生体試料の提供、医学検査結果の保存などについて是非理解していただいて協力を得たい。計画した規模の参加者が得られるように、今後広報に努めていく。平成22年から1年間かけて登録者を決定する。
 出生コホート調査の意義を認識してもらいたいのでNGOにも広報に一役買ってもらいたい。なお、10年待たずとも結果が出れば、できるだけ公開する予定である。個人情報は厳重に保護されるが、調査経過についての透明性は確保していきたい。
 以上の説明を受けた後、質問をした。
1. 生体試料のバンキングはできるとしても、化学物質の分析をする国の機関が無いので、そちらを整備することが必要ではないか。アメリカのCDCのような保健に関する検査・分析を一本化する制度が望ましい。
2. 大規模な前方コホート調査に乗り出す前に、既存の様々な公的調査・統計を精査することや、病院、保健所、学校その他の診察・指導現場と連携する仕組みを作ることが大切ではないか。たとえば人口動態統計、衛生統計、学校保健統計など。平成9年から18年の人口動態統計から乳児死亡原因を抽出してみたところ、全体として死亡率が減少している中で新生物による死亡の割合が増加傾向となった。このような分析も設計のベースに必要ではないか。
3. 特別な環境と思われるような地域の選択もありうるのか?
 1については民間の検査機関に頼ることになるという話であった。2については、保健所や学校との連携は行うつもりであるとのことであった。既存統計の分析に関してはとくにコメントは無かった。3については、一般的な環境に暮らす状況を調査することにしているが、ブロック内での研究はある程度独自性を持たせるつもりなので、参加研究者の考えで出来ることはやれるはずだということであった。

 非常に意欲的な計画であるとの印象だが、何分にも環境省は人手不足であり、設計をしたらその後のフォローまでする余地は無さそうである。このような計画を国が認めたことは、それだけ環境の悪化がひどく、その影響が子どもの状況にまで及んでいるという認識が共有されてきたことを意味し、意義深い。かつてない質の調査研究であり、従来の延長上ではない真剣な取り組みが求められる。計画の概要を発表した段階で、研究者からの問い合わせもあり、反響は大きいと言っていた。様々な側面からの討論に耐えうるような質の高い調査となることを望む。環境ホルモン研究SPEED21のまとめが「ヒトへの影響は無かった」となったようなことの二の舞にならないように、困難な分析、解析に挑戦して、子どもを取り巻く状況を的確につかむようにしてもらいたい。
 こうした調査の成功は、研究者側とデータを採られる被験者側との信頼関係に依るので、参加者を募るにあたってどのような広報をするのか注目していきたい。当国民会議でも調査の重要性を認識し、研究が有意義に進められ、大きな調査研究費の使用結果がしっかりと社会に還元されるように、応援と監視を活動に組み入れよう。一人でも多くの国民が知っていることが、調査に参加登録する母子を精神的にサポートすることにもつながると思う。

子どもコホート調査の実例(外国) 小児環境保健に関する資料集、資料3より抜粋
調査名、期間 年令など サイズ 曝露 アウトカム 結論(一部)
ニュージーランド 
1980年代
 6-7歳まで 238 Me水銀 発達影響 4歳時、影響あり
セイシェル 
1984-94
20歳まで 779 Me水銀 発達影響 29、66、107カ月、影響
なし
フェロー島 
1986-87に開始
誕生時〜 1022 Me水銀、
PCB、鉛
発達影響
フェロー島-1 
〜2007
14歳児 878 Me水銀 発達影響 神経心理学的、神経生
理学的検査で有意な差
あり
フェロー島-2 
1994-95
継続 182 Me水銀、
PCB、鉛、DDE、
セレニウム
発達影響 2週令時、中枢神経の
低下
フェロー島-3 
1998-2000
継続 547 Me水銀、
PCB等
発達影響  中断
オランダPCB 
1990-92〜
誕生児 418 PCB 生理学的、
発達影響
母乳中PCBダイオキシ
ンが関係あり
ドイツ 
1992-97
誕生-3.5歳 171 PCB 発達影響 7カ月時に影響あり
オスウィーゴ米国
1991-94〜
誕生〜 559 PCB(母親) 発達影響 12-48時間時自律神
経未成熟
オスウィーゴ米国
1991-94〜
4.5、8、
9.5歳まで
189
202
発達影響 4.5歳時に脳梁膨大の
減少ほか
ミシガン米国
1980-81〜
誕生-11歳 313 PCB 発達影響  7カ月時、視覚の反応
低下ほか
ノースキャロライナ
1978-1982
誕生-5歳 912 PCB、
DDEほか
発達影響
ほか 
新生児、筋緊張反射の
低下ほか

 

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