カドミウムなど重金属による土壌・農作物汚染
茨城大学名誉教授 浅見輝男
カドミウム中毒によるイタイイタイ病、有機水銀中毒による水俣病が深刻な社会問題になってから久しいですが、イタイイタイ病、水俣病も未だ問題は解決していません。イタイイタイ病の原因物質であるカドミウム、難燃剤として大量に使われているアンチモン、有益であるという錯誤から飲用され死亡事故を起こしたゲルマニウム、神栖市の有機ヒ素化合物による環境汚染・人体被害について、たいへん興味深いお話がありました。詳細なデータを用いての詳しいご講演でしたが、紙幅の関係で概略のみご紹介します。(文責:編集部)
1.カドミウムによる土壌とコメの汚染
農用地土壌汚染対策地域
日本では重金属汚染のうちカドミウム汚染が最も深刻である。一番最近では、大牟田の100haが2004年11月4日に汚染地として指定された。カドミウムによる土壌汚染問題は未だ続いている。
コメ中カドミウム濃度の許容基準値
日本における食品中カドミウムの許容基準値(最大レベル、最大基準値)は玄米についての1.0mg/kg(以下現物当り)しかない。国際的にはFAO/WHOの下部機関のコーデックス食品添加物・汚染物質部会(CCFAC)において、食品基準値について検討が行われ、コーデックス食品規格委員会(CAC)で採択された精米中カドミウムの最大レベル案は、当初は0.1mg/kg、1999年に0.2mg/kgに変更され、日本政府の強い働きかけにより0.4mg/kgになった経緯がある。
CCFACに対する日本政府の主張
日本政府の主張は(1)日本は火山灰土壌が広く分布しており、火山灰土壌はカドミウム濃度が高いので作物中濃度も高い、(2)日本の非汚染土壌でも0.4mg/kgに近い濃度のカドミウムを含むコメが生産された、(3)国内データを用いて実施した確率的曝露評価によっても0.4mg/kgのレベルはいかなる公衆衛生上の問題を起こさないという三点であるが、いずれも理由にはならない。
(1)について:火山爆発で噴出される火山弾や火山灰は1000℃なので、767℃と沸点の低いカドミウムは火山爆発の際にほとんど気化して火山噴出物から分離される。火山灰土壌は汚染カドミウムを多く集積するが、火山灰土壌にはアロフェンなどの粘土鉱物と有機物が多く含まれ、それらがカドミウムを強く吸着するため、イネによって吸収されにくい。
(2)について:根拠とされている調査で対象とされた場所は、いずれも非汚染土壌とはいえず、カドミウムによって汚染されていたと考えられる。
(3)について:この「確率的曝露評価」は、食品摂取量については国民栄養調査(平成7〜12年)のデータを用い、20歳以上でかつ妊娠していない者のデータを用いたとのことであるが、年少の人ほど体重1kg当たりの食品摂取量(したがってカドミウム摂取量)が多いと考えられるのに19歳以下を除いた理由が説明されていない。香山(2003)「カドミウムの吸収率に関する研究」によれば、体重1kg当たりのカドミウム吸収量は年齢が低いほど著しく高くなる。
また、確率的曝露評価が用いた農水産物中カドミウム濃度の値にも大きな疑問がある。
本来あるべきコメ中カドミウム濃度
カドミウム汚染地における疫学研究を基に算出したコメ中カドミウムの最大レベルは0.05〜0.11mg/kgである。したがって、CCFACが決めた0.4mg/kgは勿論、原案の0.2mg/kgでも高すぎる値である。
世界におけるカドミウム生産量と消費量
2006年のカドミウム生産量の56.5%をアジアで占めているが、そのほとんどは東アジア(韓国、中国、日本)である。カザフスタンもかなり多い。また、アメリカ大陸のカナダ、メキシコもかなり多い。一方、同年の消費量はアジアが52.3%を占め、中国が33.6%と圧倒的に多い。第2位はベルギー、日本の消費量は2000年の3分の1に減ったが世界の第3位である。生産量・消費量共に世界の半分以上を占めているアジア、特に韓国、中国、日本など東アジアの国々におけるカドミウム汚染が深刻であると考えられ、中国、韓国が日本の二の舞を踏まないことを念願したい。
2.アンチモン(Sb)による土壌汚染
アンチモンの人体影響
アンチモンは心臓毒性を持つことが知られている。また、人に対する慢性毒性として、呼吸器系の刺激症状、アンチモン斑と呼ばれる膿胞性皮疹が認められることがある。アンチモンエアロゾルに曝露された婦人労働者に後期自然流産・未熟児出生・婦人科的問題の増加がある。アンチモンは発がん性物質である可能性がある。
アンチモンの非汚染土壌中濃度
日本各地の非汚染土壌表層土のアンチモン濃度の幾何平均値は0.37mg/kgDW(DW:乾重)である。また、日本各地の土壌(表層土・下層土含む)のアンチモン濃度の中央値は0.65mg/kgDWである。
アンチモンの汚染土壌中濃度
もっぱらアンチモンの製錬をしている日比野金属、三国精錬、中瀬鉱山などの周辺土壌中アンチモン濃度は、幾何平均値で10.8、49.2、19.2mg/kgDW、最大値では136、277、321mg/kgDWであり、非常に高い値であった。工場労働者は勿論、アンチモン汚染地周辺住民の健康状態の調査が必要である。
アンチモンの生産・輸入量と消費・輸出量
生産量は1970年をピークに激減し、輸入量が急増している。アンチモンの消費量では、鉛蓄電池用、硬鉛鋳物用が若干で、三酸化アンチモンの消費量はほとんどが合成繊維の難燃剤である。
都市ゴミ中アンチモン濃度
1996年1〜3月の大阪市内の都市ゴミ焼却場からの試料による分析から、アンチモン濃度は30〜50mg/kgであり、これが都市ゴミ中アンチモンの平均値であると仮定すると、アンチモンの国内生産量の約20%が都市ゴミとして排出されることになる。都市ゴミ焼却場から排出されるアンチモンによる環境汚染も気になるところである。
道路脇粉じん中アンチモン濃度
道路脇粉じんにもアンチモンは含まれている。日立市を除いては、大都市ほど道路脇粉じん中アンチモン濃度は高いようである。道路脇粉じんは風により巻き上がり、吸気中に入る可能性がある。
3.ゲルマニウム
日本のゲルマニウムは全部輸入に頼っており、2000年の輸入量は37.2t、同年の世界におけるゲルマニウム生産量は58tだったので、日本はゲルマニウム消費大国である。主な用途はペットボトル樹脂用触媒(2000年の使用量の65%)、光ファイバー、蛍光体、半導体、赤外線素子用窓材などである。
ゲルマニウムの植物に対する害作用
ケイ素を多く含む植物である水稲に対する害作用は大きい。ゲルマニウム(GeO2として)が10〜45mg/L含まれた工場廃液で水稲を培養したところ、枯死した。
ゲルマニウムによる人体被害
ゲルマニウムが注目を集めたのは、朝鮮人参等の生薬中のゲルマニウム含有量が大であると言われたことによるが、これは検証されていない。ゲルマニウム中毒症の三主徴は、原因不明の腎不全ないし腎障害、貧血、ミオパチー(筋症、筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称)であり、その他しびれや知覚障害等である。ある調査では23例中6例が死亡している。
サプリメントとして与えられて摂取した子どもの死亡例がある。
ゲルマニウムを含有させた食品の取扱いについて(厚生省通達)
厚生省が1988年10月12日に出した通達によると、ゲルマニウムを含む食品は使用禁止にはなっていない。
4.神栖市の有機ヒ素(芳香族ヒ素化合物)による環境汚染・人体被害
問題の発端
1999年、神栖町木崎地区にある運輸会社の寮の井戸から環境基準値より40倍も高い高濃度のヒ素が検出されたがそのまま放置された。共同井戸を使っていた住民が2000年から2003年にかけて相次いで症状を訴えて入院。問診によると「数匹の犬が、ここ数年で相次いで死んだ」「ハムスター等の小動物がすぐに死んだ」「切花を井戸の水に活けると1日で萎れた」「泊まりに来た親戚の調子が悪くなる」。その後2003年3月になって小児(7歳と1歳8カ月)が類似の症状を呈した。
井戸水のヒ素濃度
共同井戸(A井戸)の水から2003年3月19日にヒ素が水質基準値の450倍の4.5mg/Lが検出された。原因物質は主としてジフェニルアルシン酸(DPAA)である。DPAAはヒ素として最大15mg/L検出された。A井戸の西方約1kmに位置する地区のB井戸の水から環境基準の43倍のヒ素が検出された。
住民健診結果と中毒症状
2003年4月に行われた住民健診でみられたDPAAなどによる中毒症状として、急性・亜急性症状は歩行障害、構音障害、巧緻運動障害などの小脳症状、四肢振戦、ミオクローヌス、復視などの小脳・脳幹症状に加え、睡眠障害、記憶力障害、視覚異常などの大脳皮質の側頭葉・後頭葉症状などがあった。原因物質曝露から1〜2週間遠ざかると症状が軽快・消失し、再曝露にて1〜2カ月で再び症状が出現するのが特徴とされた。
ジフェニルアルシン酸の由来
2005年1月に埋土層の中から高濃度のDPAAを含むコンクリート様の塊が発見された。そこはA井戸の東南90mの地点で、生け簀を埋め戻した場所である。生け簀設置時期は平成3〜4年頃、埋め戻したのは平成5年頃である。原因者は特定できなかったという。
コンクリート様の塊の処理とその問題点
DPAAを含むコンクリート様の塊、汚染土壌および有機ヒ素による汚染米などは一般廃棄物・産業廃棄物と共に混合処理された。投棄行為者を捜索すべきであるのに、環境省は住民の不安を口実にしてこのコンクリート様の塊を早々に搬出して焼却処分してしまった。その結果、実行行為者の捜索が棚上げされたまま、「少なくとも旧日本軍や国はこの事件に関与していない」として、事実上国の責任が放棄されたまま、幕引きが図られた。このような一連の措置は国による証拠隠滅であるということができるであろう。
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