ニュースレター 第49号 (2007年12月発行)
重金属の人体影響及び重金属コントロールのあり方

愛媛大学農学部 森田昌敏

※たくさんの図表を示していただいての詳しいご講演でしたが、紙幅の関係で概略のみをご紹介します。(文責:編集部)

1 はじめに
 重金属の問題は古くて新しい問題です。
 江戸時代には、鉄や青銅の採掘・利用の過程において、多くの健康被害を生み出し、鉱山で採掘にあたった作業者に至っては寿命が3年と言われていました。また、カドミウムや有機水銀がもたらした、イタイイタイ病や水俣病といった深刻な公害はみなさんもよくご存知かと思います。
 もっとも、これらの問題は、決して過去のものとなったわけではありません。たしかに、現代においては、過去にみられたほどのひどい汚染はなくなってきたようです。しかし、私達の身のまわりには、実は多くの元素がさまざまな形で思わぬ接触が進んでいるのです。その影響を正しく認識するために、いま毒性学的な理解を私達ひとりひとりが知ることが求められています。
2 必須元素
 必須元素は現在、フッ素、ケイ素、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ヒ素、セレン、モリブデン、スズ、ヨウ素の15種類があると考えられています。これらが不足した場合、動物では、成長低下や貧血等の影響が生じることがわかっています。ただ、人間にこのような影響が生じるかはいまだ不明なことも多いようです。注意しなければならないのは、必須元素でも過剰に摂ると毒性を示す物質があるという事実です。たとえば、銅、ヒ素、モリブデンが挙げられます。また、バナジウムについても過剰摂取による発がん性が疑われているようです。以上のことについては右の表を参照してください。
 他方で、必須性を示さず、少量で毒性を示すものがあります。有害元素と言われ、カドミウム、水銀、鉛がこれにあたります。
3 重金属の吸収経路
 重金属を吸収する経路は、消化管吸収、経皮吸収、経気道吸収の3つに分類されています。
 まず、第一の消化管吸収。この経路からの吸収は、生物の年齢、健康状態、勤続の過不足状態、消化器の状態、重金属化合物の化学形態とその量、食物中の他の成分(有機物、無機物)など、数多くの因子により左右されます。
 第二に経皮吸収。実は、皮膚は厚いケラチン膜で覆われているため、皮膚から重金属を吸収することはあまりおこりません。もっとも、脂溶性の化合物であるジメチル水銀やテトラエチル鉛等、6価の酸素酸塩などは、皮膚から吸収されることが知られています。
 第三に経気道吸収。大気中に金属化合物がガス状、あるいは細かい粒子として存在しているとき、呼吸を通じて体内に侵入する場合があります。体内に溶解するものは、溶解後吸収されて血流に乗って各臓器や組織に運ばれます。このとき輸送にかかわるのは、グロブリンやアルブミンのようなタンパク質、あるいは赤血球や白血球のような細胞です。他方、体内に溶解しないものは、肺に沈殿してしばしば沈着部位に障害を残します。
4 重金属の臓器分布
 金属の臓器分布(右表)は、金属の投与ルート、たとえば経口的か経気道的、あるいは腹腔膜への注射、金属化合物の量と化学形態、動物の種類などによって異なります。もっとも肝臓や腎臓に集まることが多いようです。
5 重金属の排泄
 体内の金属濃度を保つために、体内に取り込まれた重金属の排泄です。ルートと速度の2点から分析されています。
 まず、ルートですが、@ふんとしての排泄、A尿としての排泄、B皮膚からの排泄、C呼吸器からの排泄、Dその他母乳などがあります。ダイオキシンのような脂溶性の高いものについては、Dの母乳からのルートを気をつける必要があるといえます。
 次に、速度ですが、小動物では速く、人間では遅いそうです。
6 重金属による中毒例――鉛、ヒ素、水銀、ニッケルに重点を例として
(1)鉛
 鉛は、有害重金属のうちもっとも大量に生産されている重金属です。世界の年間生産量で330万トン、リサイクル鉛を含めると消費量は年間560万トンにも及びます。このうちの90パーセントは、自動車のバッテリー等の用途で北半球で消費されています。
 加鉛ガソリン、鉛の製造と加工、天然の鉛降下物を主たる原因とした鉛による大気汚染が従容来問題となってきましたが、現在、わが国ではハイオクガソリンへの鉛の使用がないため、空気中の鉛は低くなっています。もっとも、廃バッテリーや鉛ハンダの使用の結果、工場跡地等での土壌汚染が問題となっています。また、容器由来で食品が鉛により汚染されるケースもあります。
 鉛中毒による疾患のもっとも多い症状が、眠気や麻痺、よろけあるいは昏睡及び神経症状です。その他、眼筋麻痺、下腿と足の伸筋麻痺、視神経障害による失明、脳髄液の圧の低下と、高濃度のタンパク質と白血球を含むなどの影響が生じることがあります。また、生殖系への影響が指摘されており、将来世代への影響を無視することは出来ません。
(2)ヒ素
 ヒ素は自然界に広く分布する元素で、海水中などにも存在します。そのため海産物に濃縮されているおそれがあります。また、味がなく気づきにくいことから化学兵器に使用されたり、その他除草剤や殺虫罪としても使用されています。
 ヒ素に非致死レベルで暴露した場合、全身症状として発熱、体重減、消化器症状として食欲不振、下痢、嘔吐、肝肥大、肝機能障害、呼吸器症状として咳、鼻汁、皮膚症状として汗疹、発疹、色素沈着、色素脱色、皮膚剥離、脱毛、爪の変化、粘膜症状として口内炎、結膜炎、眼瞼浮腫、脳神経症状として痙攣等が生じます。
(3)水銀
 水銀は、常温で液体の唯一の元素であり、蒸発圧が高いため、大気中に放出されやすく、水銀による中毒は歴史的に古いようです。水俣病の原因としても知られます。
 水銀は、蛍光灯や温度計、塩の電解電極、アムルガムに使用されており、水銀化合物は、殺菌剤や顔料、触媒として使用されてきましたが、先進国ではその消費量は着実に減少しているそうです。
 高濃度水銀蒸気に暴露すると、気道刺激、化学性肺炎、肺浮腫を引き起こします。また、経口的に摂取すると、消化管がダメージを受け、嘔吐、血便胃痛、腎機能低下、尿毒症を示します。
(4)ニッケル
 ニッケルは、これなしでは生活が困難であるため、一度過剰化すると非常にやっかいな元素です。
 皮膚炎の原因でもあり、また、精子形成への障害作用といった将来世代への影響も重要です。

 

前のページに戻る