ニュースレター 第48号 (2007年10月発行)
「ダイオキシン2007国際会議」報告

国民会議常任幹事 松崎 早苗

●国際会議全体の報告
 第27回目となるダイオキシン2007国際会議が9月3日から7日まで東京で開かれ、1000人以上の参加者があった。数年前からわれわれ国民会議の会員が参加しており、今回は10名ほど参加しポスター発表もした。市民セクターとしては画期的なことである。
 会議は全体報告の他は6つの会場に分散して多様なテーマで発表が行われた。
【全体報告】
1.世界のPOPsインベントリーとして、ストックホルム条約で指定された化学物質の残留量、排出量等各国から報告された量が報告された。この条約に米国とロシアが参加していないので、主として欧州の集計が示された。PCBは83,000トンが残留しているとされ、今後毎年廃棄物中に6.25トン出るという(注:日本の総残留量は5万トンと見積もられている)。ダイオキシン類PCDD/Fの排出量は年15.7kgTEQと推定された(ダイオキシン特別法ができた時点での日本の年排出量推定値に相当。日本の現在は10分の1以下)。欧州のインベントリーはつぎのサイトで見られる。http://epor.ec.europa.eu
 国連として集計したPOPs排出量では、アフリカのある国が他国より2桁も多いなど理解に苦しむものがあり、推定法の指導が必要のようであった。発生源としては先進国では廃棄物の焼却と金属工業が主で、途上国では野焼きが主である。国民の啓蒙に加えて日本のように特別法を作って高額の資金をつぎ込むなら、途上国政府は先進国の支援が要る。
2.臭素化難燃剤(BFRs)の現状と見通しについて2人の学者が見解を闘わせながら発表した。環境中に増えつづけるこの物質は塩素化ダイオキシン同様の強い毒性と蓄積性があり、しかもBFRsは分子構造が多様、種類が多いのである。さらに、環境中で変化して水酸化体になったものの毒性が強い。すでに母乳にも混入していて(0.5―1.0pmol/g lipid)毒性研究が始まって数年しか経っていないこの物質の将来について、毒性や環境蓄積性の方から強く危険性を唱える見方と、BFRsが火災の発生や延焼を押さえるという利益を加味した総合的リスク計算を進めようという見方の討論形式であったが、大学の学者と国際機関の専門家という立場の違いがあったと思う。まだダイオキシンのようなTEQという毒性指標すら合意されていないこの物質について、総合的リスク論は果てしなく条件が広がっていき収拾がつかず、結局はこの物質を生産し販売し続ける業界を利するだけであると思う。
3.ダイオキシンの受容体と言われているAhRの作用メカニズムの総合的研究発表があった。藤井―栗山筑波大教授が国内での共同研究を通して見えてきたダイオキシン(TCDD)の毒性学医学基礎研究の成果を発表した。遺伝子DNAへの構造変化を含めた分子レベルの反応メカニズムについての新しい知見と考え方が示されたが、専門的な詳細は私の力不足でここに報告できるほど理解していない。
4.生物体内と環境中のダイオキシン類量を測定する手段として、厳密で高価な方法ではなく蛍光体を作って蛍光強度として測る方法の総合発表であった。数年前に簡易測定法として米国のデニソンが考案し、現在日本でも(株)日吉がこの方法で測定しているが、臭素化やフッ素化ダイオキシン類まで問題になってきた現状でこの簡易法が環境把握とリスク考察にどう寄与できるかが述べられた。この蛍光体を作るメカニズムはダイオキシン類だけではないので、蛍光強度はそれらの化学物質も含めた存在量になるが、迅速な対応を求められる環境悪化の把握法として粘り強い研究が続いているという印象を受けた。
5.POPs条約の精神に則って環境濃度を低減するには「入手可能な最良の技術(BAT)」をもちいることが条約で勧告されている。条約批准国のBAT仕様を支援する指針を2009年5月までに策定するという。今年のCOP3に指針案を報告するという。検討委員会は地域代表のほか国際機関2、NGO4から成り、6カ国語で提供されるという。条約の構造と実行計画、環境データなど、一つの条約が実施され環境改善が実現されるためには経済的政治的条件の整備が欠かせないこと、それらの見通しなどについてこうした学会で率直に語られるのは好ましいことである。
●個別発表についての個人的報告
a)フッ素化化合物
・ フッ素化化合物が環境中に蓄積しはじめており大きな問題になってきている。それに曝露される主な経路としてハウスダストが注目されていて、2600pg/m2が測定されていた。毒性研究がまだ不十分なので、この値がどういう危険性につながるのかは不明である。
・ フッ素化化合物は水に溶けやすいがPFOSとPFOAの2物質について、海水中の濃度は大西洋が濃く、南太平洋は薄いという。海中の全量はまだ予測出来ない。
・ フッ素化化合物については下水処理場でも水道の浄水技術でも除去できないので危機感が高まっている。ヨーロッパのライン川について全流域の工場群、全流域の水道利用人口を考慮すると将来に極めて悲観的な事態が予想されるという警鐘的報告があった。個別の化学物質を対象とした排出規制という政策が破たんしていると訴えていた。
・ ヨーロッパでは環境濃度が1985年の0.2から2005年の1.3と上昇し、水質ではフランスから北イタリアを流れるポー川が飛び抜けて汚れ、底質ではライン川、大気ではイギリスが、下水処理場や雨水ではオランダが最高に汚れている。生物種によって蓄積する化合物の種類に差があり、食品の中では魚が最も汚れている。
・ ファロー島の子供1022人(1968―71年生まれ)の血液検査が行われたという。魚多食国民における健康影響が今後解析されることになるが、日本人は他人事と思わず結果に注目していくことが求められる。
b)臭素化化合物
・臭素化化合物(PBDEs)ではとくにBDE209(デカとも言う)が注目されていたように思う。PBDEは体内で水酸化体(OH-PBDEs)に変化して蓄積する。現状の体内濃度例では32ng/g脂肪が示され、米国人のPCB濃度に近い値だという。ただし、個人差が非常に大きいのでリスク評価では安全係数を大きく(千から百万)とる必要がある。歴史的にはゴム製造労働者が被害を受けた。
     ◇
 研究は地道に積み重ねられているという印象を受けた。警鐘的な汚染事実と影響実験などの情報を元に国民が政府を動かして対策を取らせることが環境問題解決の道筋であるが、こうした国際会議で情報を集めることは重要である。市民グループがその行動を始めたことは画期的であるが、盛りだくさんの発表の中から警鐘を聞き分けるのは大変なことである。さらに対策としての法律ができた後の監視を継続することが重要である。このレポートでは重要、緊急なことを取りだして伝えたということではないので、他の会員の報告で補っていただきたい。

Table3: Reported releases of PCDD/PCDF to air for member States of the European Union according to EPER reporting(g1-TEQa-1); reference year=2004

Country Emission to air(g1-TEQa-1) % of EU total
Austria 1.47 0.1%
Italy 92.1 6.5%
Hungary 2.50 0.2%
Germany 106.11 7.5%
Portugal 11.6 0.8%
France 212.93 15.0%
Sweden 20.6 1.4%
Poland 246 17.3%
Belgium 29.68 2.1%
Spain 285.6 20.1%
United Kingdom 68.92 4.8%
Czech Republic 345 24.3%
TOTAL 1,422.51 100%

 EUのPRTR法に基づいて報告された2004年度の大気へのダイオキシン排出量。I-TEGは国際合意の計数による毒性量を、a-1は年間を意味する。ちなみに、日本が国連に報告した2003年度の排出量は400gTEQa-1であったという。EU諸国の値と比較してみて下さい。

 

前のページに戻る