ベトナム、台湾、カネミ、セベソの今
被害者・研究者・NGOが一堂に集う
ダイオキシン国際NGOフォーラム in 東京2007
ダイオキシン国際NGOフォーラム実行委員会と国民会議の主催による「ダイオキシン国際NGOフォーラム in 東京 2007」が、9月1日、2日の2日間にわたって東京・市ヶ谷のJICA国際協力総合研修所国際会議場において開催された。このフォーラムは、9月3日から東京で開催された第27回国際ダイオキシン会議のために参集される世界中の専門家・被害者などの方々が、国際会議に先立ってNGOのために一堂に会するという初めての試みだったが、両日とも大きな会場が満員となる盛況であった。ダイオキシン・環境ホルモン問題は終わったかのような言説があったり、めっきり報道されることが少なくなっている昨今だが、まだまだ問題は山積されており解決にはほど遠いことが改めて確認された。しかし、心ある人たちが日本中から駆けつけてフォーラムに参加されたのは心強い限りであった〔広報委員会〕。
《第1日目プログラム》2007年9月1日(土)
環境ホルモン問題から見た、ダイオキシン被害の実情
〜ベトナム、台湾、日本〜
セッション1
ベトナム枯葉剤被害
◆「ベトナム枯葉剤検診から見たダイオキシンの人体影響(1990―2005)」
三浦 洋(阪南中央病院長、日越医療交流センターMECJV)
◆「ツーズー病院・平和村から見た枯葉剤被害の実情」
グエン・チ・フォン・タン(ツーズー病院・平和村所長、医師)
〔三浦洋さん〕
日越医療交流センターは、結合二重胎児として社会の耳目を集めたベトちゃん・ドクちゃんの分離手術が行われた1988年から活動をしています。その活動は、ベトナム戦争の際にアメリカ軍によって枯葉剤が散布された地域を中心に診療所を建設し、枯葉剤の被害地域で検診を行うことを主な内容としています。検診は、毎年「ベトナム医療交流団」を組織して実施されており、q住民の健康状態を把握し、ベトナム診療所の保健活動に役立てること、w先天奇形と甲状腺腫瘍の発生率を調べ、対照地域と比較すること、を目的としているとのことでした。これまで検診活動を行われてきた地域では、多指症、口唇裂、ダウン症、二重結合胎児などの先天奇形などが見られ、甲状腺腫が多発しているとのことでしたが、これまでの活動で獲得されたデータを、例えば日本の数値と比較してみるなどといった分析作業がまだ十分にできていないとのことでした。枯葉剤暴露とその健康影響に関する米国科学アカデミーの報告では、枯葉剤暴露関連疾患として十分な証拠のある疾患がいくつか認められているようですが、先天奇形などは関連疾患として決定するには不適切もしくは証拠不十分な疾患とされているとのことでした。もっとも、この報告が採用している基準そのものの見直しの動きもあるとのことでしたが、日越医療交流センターがその活動により獲得してきたデータの分析が待たれるところです。
〔グエン・チ・フォン・タンさん〕
ベトナムのホーチミン市立ツーズー病院は、ベトナム南部で最大の産科婦人科総合病院であり、ベトちゃん・ドクちゃんが入院して分離手術が行われた病院としても有名です。この病院の中にある平和村は、枯葉剤被害の子どもたちのための機能回復センターで、グエン・チ・フォン・タン医師はこの平和村の村長をされています。タン医師からは、ツーズー病院や平和村とその活動概要についてご紹介いただいた後、映像により、平和村で生活している枯葉剤散布地域で生まれた先天性奇形を中心とする障害児が数多く紹介されました。腕や指の欠損、足の短小、眼球は存在するが瞼が形成されていないために目が開かないといった障害、眼球突出や脳や頭蓋の異常などの障害児とその生活の様子が映像で紹介されましたが、印象的だったのは、現在の収容児の少なからぬ数が90年代の半ばからごく近年に出生している児童で占められていることでした。アメリカ軍による枯葉剤の散布からは相応の時間が経過していますが、被害は続いており、暴露者の孫として出生した障害児も多く存在するとのことでした。なお、来場者からの質問に答えるタン医師の話では、枯葉剤被害の障害児であると認定された場合には、診断や治療が無償となるといった補償が受けられることになっているようでしたが、認定基準や認定手続などとの関係から、未認定障害児の問題も存在することがうかがわれました。
【竹澤・記】
セッション2
台湾油症被害
●「台湾油症患者のPCB/PCDF 暴露に関する長期的健康影響」
郭 育良(国立台湾大学医学部環境労働衛生医学科教授)
●「台湾油症被害者は語る」
陳 麗玉(私立恵明学校元校長)
呂 文達(被害生徒)
黄 月嬌(台湾主婦連盟環境保護基金会委員、支援者)
午後のセッションに先立ち、台湾油症を扱ったDVD「毒と共に生きる恵明人」が流された。視覚障害の子どもたちが自立を目指す私立恵明学校で食品中毒に遭い、身体的にも精神的にもさらなる負担を強いられたことは痛ましい。
〔郭 育良さん〕
台湾油症は、1979年4月に発生し、PCB、PCDFが混入した食用米ぬか油が原因であることは10月に判明した。油症被害者の血清中のフランやダイオキシン、PCB類の濃度は、16年経って4分の1に減少しているはずの1995年の時点でも、なお参照群の20倍を超える異常な高さである。
被害者にはクロルアクネ、爪や歯の異常、関節炎、貧血や月経異常等の罹患率が高く、初期では肝臓疾患、後期には全身エリテマトーデスによる死亡率が高い。次世代への影響も見られ、もろくて割れやすい等の歯の異常、呼吸器感染、耳感染症、爪の色素沈着や変形、精子減少症、IQが低く認知発達に問題あり等が報告されている。癌による死亡の増加、第三世代への影響等については、今後も調査が続けられる。
〔陳 麗玉さん〕
恵明学校は全国の視覚障害児を集め自立教育を行ってきたが、学費は完全に無料でほとんど寄付金による運営であり、1日500人の給食の経費を節約するため、米ぬか油を試用後にまとめ買いしたところ、約半年後の1979年4月に年少児や年配者にもにきびが出るなどの皮膚症状に始まり、生徒や教職員らに多様な症状が出始めた。皮膚病としての治療で改善がみられないことから食品中毒が疑われてからは、原因物質不明ながら油は豚の脂に変更した。5月上旬に衛生局に届出して検査を依頼したが、8月に近所の工場でも同じ症状が出て初めて米ぬか油が原因であると判明、その後、衛生局がカネミ油症を知って日本に検査を依頼、10月にPCBが原因と報道された。
一旦体内に取り込まれたPCBなどが完全に排出されることはないため、被害は今なお続いており、結婚しない、子どもを持たない選択をした者もいる。医療機関に理解がなく医療を受けることで傷つくし、費用は自費であり、採血などに協力しても治療につながっていない。被害者には医療機関を無料開放して欲しいと考えている。
〔呂 文達さん〕
痛みや疲れやすい、不眠など今も後遺症として残る身体症状のつらさもさることながら、それらの症状への理解が得られず、顔面などに残る傷跡を奇異な目で見られ嫌われるなど、対人関係への影響も著しく、卒業後の就学、就業に当たっても継続が難しい。心の傷の方がなお深刻であり、その研究も含め、被害者の尊厳を保てる医療などの対応策をとって欲しい。
〔黄 月嬌さん〕
過去の事件として世間から忘れられた感があった台湾油症について、日本の油症被害者や支援者が関心を持っていることを知り、主婦連盟も地球を愛する団体として、2005年のダイオキシンのフォーラムで被害者にアンケートを実施した。経済的にも苦しく医療費等もかかっている実情があり、今後も協力して勉強しながら台湾で支援活動を展開していきたい。
【菊池・記】
セッション3
カネミ油症被害
◆「カネミ油症研究の現状と課題」
下田 守(下関市立大学教授)
◆「カネミ油症被害者は語る」
宿輪敏子、重本加名代(カネミ油症被害者)
◆「カネミ油症被害者支援センターの活動」
佐藤禮子(カネミ油症被害者支援センター)
◆「ダイオキシン被害者救済に向けて」
各界からの発言
古江増隆(九州大学医学部皮膚科教授、全国油症治療研究班班長)
神山美智子(弁護士)
田端正広(衆議院議員、公明党カネミ油症問題対策プロジェクトチーム座長)
犬塚直史(参議院議員、民主党カネミ油症被害者救済の行方を見守る議員連盟事務局長)
最初に、当初予定されていた原田正純さんに替わって下田守さんからの講演、次いでカネミ油症被害者のお話、各界からの発言があった。
〔下田守さん〕
カネミ油症患者の最近の症状として、色素沈着、塩素性座創、嚢腫・膿瘍、毛穴拡大など、起立性調節障害、関節痛、腰痛、しびれ感、低血圧、不整脈、肝障害その他多様な症状がある。油症は全身病であり、病気のデパート、症状の多様性が特徴である。非特異的な症状がきわめて多い。個人差が大きく、同じ家族でも現れ方はかなり異なる。同一人でも時期・状況により症状の現れ方が異なるので年1回の検診で一時的な状態だけ見ても症状をつかみきれない。一つ一つの症状は油症と無関係な人にも見られるが、集団としてみると油症患者に一定の傾向があるので、集団としてみていく必要がある。しかし、油症を隠す傾向などから、厳密な疫学的研究は困難な状況である。
油症研究の問題点として、本格的な事故調査が欠如し原因究明が中途半端であること、濃厚汚染のみに注目し汚染・被害の広がりが軽視されていること、典型症状を重視し多様な症状は必ずしも顧みられなかったこと、経過の不透明性と社会的な偏見・差別などがある。「人類に未知の経験」「患者が教科書」という原田正純さんの言葉を引きながら、課題として、詳細な実態調査を行い広範な未認定患者を把握すること、生活の場でどのような不便・支障があるのかの把握と対策・生活支援、事件の本格的な見直しと学際的な取り組みを挙げ、最後に2005年に原田正純さんが日弁連に提出された意見を紹介された。
〔宿輪敏子さん:認定患者〕
セッション2で紹介された台湾油症被害者の症状と心の問題は、カネミ被害者と全く同じだった。全身にあらわれる様々な症状について、被害者からの聞き取り調査をするようになった。ある島ではみんなガンで亡くなったと聞いた。鼻血が止まらずに亡くなった中学生の女の子、その他たくさんの例がある。未認定の人が多く、実態はわかっていない。次世代にも間違いなくいろいろな症状が伝わっている。
油症について医師もほとんど知らないため、全身症状を訴えると精神疾患を疑われて馬鹿にされるというような人権侵害がある。ダイオキシンに害はないと言う科学者もいるが、その人達にはダイオキシンを食べてみてもらいたい。これ以上化学物質の被害者が出ないようにすることが化学物質を作り出した私たちの使命だ。根本的な治療法を探すこと、私たちを治せたらすべての化学物質被害者を救えるのではないか。ダイオキシンの被害が甚大であることは間違いないが、被害が甚大だというだけでは被害者は失望するだけ。どうしたら症状が良くなるのかを研究すること、無料で治療が受けられる仕組み作りなど、沈黙を守らざるを得ない被害者に希望が持てるようにしてほしい。
〔重本加名代さん:未認定患者〕
朝起きて最初にするのは目やにをとること。これをしないと目が開けられない。あらゆる臓器、神経系、免疫系、生殖系などがボロボロになって、よくこれで生きていけるなという状態だ。体調が悪く病気で亡くなる人、自殺で亡くなる人もいる。油症患者は、身体だけでなく精神的にも経済的にも苦しい。子どもたちは小さいときから親レベルに具合が悪い。
これまで本当に苦しんできたが、今は未来の人類のためにダイオキシン被害を伝えることを喜びとしている。未認定患者は認定患者と同じ苦しみを味わっているのに、油症班は認めてくれない。認定制度自体がおかしい。ダイオキシンは私たち人類が利便性を追求した結果できたものだが、未来世代に絶対に残してはいけないということを世界中に伝えたい。私たちと協力して欲しい。
〔佐藤禮子さん〕
農水省は政府保管米委託料として年間2億、厚労省は何ら根本的治療が見つからないまま研究費として39年間で26億の税金を使っている。さらに2016年までにPCB処理をするために2000億の税金が使われる。それに比して、1300人の認定患者は医療費の個人負担分を払ってもらえるが、その額は年間わずか4000万。油症患者に当初払われていた見舞金も最近の認定患者40人には払われなかった。被害者に届かないお金があることを訴えたい。世論を盛り上げていくことが必要だ。
〔古江増隆さん〕
医者と患者の間には隔たりがあるが、油症が人類にとって極めて重大な病気であり解明の必要性があることは一致している。油症治療研究班として本当に何が大事な油症の特徴なのか、100%納得される医学的データをあげていかなればならない。現在、漢方薬を使った臨床試験中である。また高脂血症薬の効果についても検証中。これらの動きは3年前から油症新聞を出して患者さんの理解を得るようにしている。
〔神山美智子さん〕
カネミ油症被害者代理人弁護士保田行雄さんに替わって、仮払金問題の説明、人権救済申立を受けて日弁連が行った活動、国による食品事故被害者救済制度の必要性について説明された。
〔田端正広さん〕
2001年にカネミ油症事件がダイオキシン事件であることを取り上げ、厚労省が認めてから仮払い免除特例法案に至る経緯を説明。また与党として、q仮払い免除の特例法の成立、w認定患者1300人に一人あたり20万の調査協力見舞金を払う、e油症の研究と診療の拠点を九州大に創設することを決定したこと。また超党派の議院連盟もスタートしたことを報告された。
〔犬塚直史さん〕
油症事件は当初から食中毒事件として扱われなかった。食品衛生法に於いては、原因食品が分かった段階で、国はその食品の回収・廃棄を行うべきであるがそれをしなかったこと、認定基準を設け当時保健所に届け出た13,334人全員を被害者として認めなかったことが油症事件の大きな問題であり、全ての被害者に国が責任をもつべきであることを述べた。
【中村・記】
《第2日目プログラム》2007年9月2日(日)
環境ホルモン問題から見た、ダイオキシン研究・対策の今
セッション1
日本におけるダイオキシン汚染の実情
◆「ダイオキシン食品汚染の実情」
宮田秀明(摂南大学教授)
◆「豊能郡美化センター、ダイオキシン暴露労働者の20年」
八木 修(能勢ダイオキシン労災基金事務局長、能勢町議会議員)
〔宮田秀明さん〕
まず、わが国におけるダイオキシン類の環境中濃度の調査について報告いただきましたが、環境中濃度のうち、特に公共用水域の底質の濃度が、1998年度以降、ほとんど横ばいで減少していない点が大きな問題と感じました。
続いて、日本人が食品経由で摂取するダイオキシン類に関する報告がなされ、ダイオキシン類の一日摂取量のうち、魚介類経由のものが非常に多いことが分かりました。底質が汚染されると、食物連鎖によって濃縮され、魚介類が汚染されてしまいます。底質汚染は、まさに日本人のダイオキシン類摂取と直接繋がっている問題と感じます。
また、魚介類以外の食品汚染の状況についても、各食品のダイオキシン類の摂取量について、定量下限値の半分を摂取するものとして計算すると、総摂取量は、定量下限値以下をゼロとして計算する場合の約2倍にもなり、しかも、魚介類以外の食品から摂取するダイオキシン量が、総摂取量の50%を超える結果になるとのことであり、他の食品の汚染も軽視すべきでないことは明らかです。
このような食品の汚染に対し、EUでは、食品と飼料についてダイオキシン類の含有基準値が設けられていますが、日本ではそのような基準はありません。EUの基準値を参考に日本の状況を見ると、日本はEUに比して魚介類の摂取量が多いため、EUの含有基準値(8pgTEQ/湿重量)の3分の1程度が適切な基準値と考えられますが、調査によれば、市販魚の半数は、この含有基準値を超過するとのことです。特に、魚介類のうち、国内沿岸・沖合産のものは、遠洋・輸入のものよりも数倍高い汚染濃度を示すとのことであり、いかにわが国周辺海域のダイオキシン類汚染が深刻なものであるか分かります。
また、今後の重要な懸念としてリンデン等の名称で使用されてきた農薬であるHCHの廃棄物、特に、HCH 廃棄物リサイクル製造残渣中のダイオキシン類濃度が超高濃度であり、重大な環境汚染源となっていることをご報告いただきました。
〔八木修さん〕
廃棄物の焼却処理施設である豊能郡美化センターは、構造上の欠陥を認識しつつも十分な改修が行われず、冷却水や煙突からの排出ガスに含まれるダイオキシン類によって周辺土壌等を汚染するという問題を引き起こしました。その後、同センターは、厚生労働省の調査により、施設閉鎖・廃炉とされ、多額の対策費用を投じて、焼却炉の解体や汚染土壌の対策等が行われましたが、現在でも、建屋の解体や高濃度汚染物の処理等が課題として残っています。加えて、最大の曝露を受けた被害者である労働者に対しては、毎年の健康診断しか行われておらず、被害者の健康対策が不十分であることは大きな問題です。
さらに、司法に関する今後の課題として、健康被害が現実化する以前に、たとえばダイオキシン類の曝露を受けたことにより将来健康被害が発生するリスクを負担した時点で賠償責任を認めるような制度が必要であるとの意見が提示されました。確かに、将来、健康被害が発生するリスクを負担した場合には、健康被害の発生を予防するための対策を十分に取るため、早期に加害者の責任を認定し、被害者を救済することが必要です。また、曝露から長期間経過後に健康被害が発生した場合、証拠が散逸し、曝露と健康被害の因果関係の立証も困難が予想されることからも、上記のような制度の必要性を検討すべきです。
【伊達・記】
セッション2
環境ホルモン問題から見たダイオキシンの毒性・人体影響
◆「ベトナムにおける枯葉剤とダイオキシン」
アーノルド シェクター(テキサス大学教授)
◆「セベソ事故後31年:ダイオキシンの人の健康への影響」
パオロ モカレッリ(ミラノ・ビコッカ大学教授)
◆「ダイオキシン毒性と健康影響……実験研究者の視点から」
遠山千春(東京大学大学院教授)
〔アーノルド・シェクターさん〕
四半世紀に渡って、ベトナムにおけるダイオキシン問題を研究されてきたシェクターさん。同氏の報告は、ダイオキシンが人体に及ぼす影響を踏まえ、ベトナムの人々やベトナム退役軍人の現状を伝えるものであり、ダイオキシン問題は被害者にとって、また私達にとっても過去のものでなく、いま現在の問題なのだと再認識させてくれるものでした。
ベトナムで、アメリカ軍が枯葉剤(オレンジ剤)を散布したのは1962年〜1971年。これにより南ベトナムの15%の植物が死滅し、数百年は残留するとされるダイオキシンが残されました。曝露したと考えられる人々は3万〜350万。しかし、ダイオキシンの健康上の影響は、qガン発症の増加、w免疫不全、e内分泌かく乱、r生殖障害、t発達上の影響、y神経系障害、u皮膚損傷、i肝臓障害、o血中脂質濃度と肝酵素の上昇、高濃度曝露者の心臓発作による死亡の増加などであり、これらの疾病をダイオキシン曝露によるものだと判定するのは難しいという現実があります。また、ベトナム退役軍人も同様の問題から米国政府からの補償を受けられない人がいるそうです。ダイオキシンによる健康上の影響については、更なる研究が期待されています。
〔パオロ・モカレッリさん〕
ダイオキシンがもたらした事件は、ベトナムでの枯葉剤(オレンジ剤)散布だけではありません。1976年7月10日にイタリアのセベソで起こった事件もまた、人々にダイオキシン問題の深刻さを物語るものでした。このセベソにおける地域住民の監視のための臨床研究プロジェクトのコーディネーターとして31年間に渡り、ダイオキシンの研究をされてきたのがモカレッリさんです。
その報告は、31年間の集大成とも言うべきものであり、事故当時の被害状況にはじまり、ダイオキシンの人体に対する影響、そして私達人類の未来の展望にまで渡るものとなっています。男性の曝露は男児出生率の低下をもたらす、前思春期〜思春期年齢は感受性が極めて高いため、曝露は恒久的な影響を及ぼすことになるなど人類の未来にとって重要な事実がそこでは明らかにされています。
最後に同氏が強調したのは、セベソ住民に対する感謝。被害に遭いながら、その影響に関する研究に積極的に協力して下さったセベソ住民がいてこその研究成果であるとの言葉が、事件の現場を大切にしてきたからこそなしえた同氏の功績の重みとそれを支えた住民との信頼関係を私たちに伝えてくれた気がします。
〔遠山千春さん〕
私たちは、生物という天賦のシステムについて知っていることより、知らないことのほうが遙かに多い。日本が経験してきた、水俣病・イタイイタイ病・四日市喘息・カネミ油症といった公害問題やスモン・薬害エイズといった薬害問題による深刻な健康被害は、この事実に目をそらして引き起こされてきた。化学物質や製品は、健康に悪影響を及ぼす蓋然性が高い。これらのものについては、未然防止の観点から使用が制限されたり禁止されたりしなければならない。
遠山さんのこれらの言葉を私達は真摯に受け止める必要があるのではないのでしょうか。同氏の報告は、ダイオキシンによる致死毒性が動物種によって異なることや、胎児期や授乳期のダイオキシンへの暴露が次世代にまで影響しうること等を明らかにしています。しかし、明らかになっていない部分もあります。私達は化学物質についての多くを知らないということを知ること、それこそがダイオキシンによる深刻な被害を引き起こさないようにするために不可欠だと改めて強く気づかされるものでした。
【尾谷・記】
セッション3
ダイオキシンの削減対策(16:00〜17:45)
◆「スウェーデンにおけるダイオキシン汚染源の特定と定量化及び現在のリスク削減の取り組み」
ニクラス ヨハンソン(スウェーデンEPA)
◆「ダイオキシン対策に関する私たちの提言」
藤原寿和(国民会議常任幹事、止めよう!ダイオキシン汚染・東日本ネットワーク事務局長)
〔ニクラス・ヨハンソンさん〕
ダイオキシンについて先進的な取り組みをしてきたスウェーデン。そのスウェーデンのEPAで研究やその計画・資金コーディネーターをしてきたヨハンソンさんの報告には、私達が学ぶべきところが多くありました。
ダイオキシンの汚染源には、一般廃棄物消却炉、化学工業、金属工業、紙パルプ産業、大型ディーゼルエンジン(海運業)といった一次汚染源、そして二次汚染源があります。このうち一次汚染源からの排出量は減少しており、二次汚染源の重要度は相対的に上昇しているようです。二次汚染源の問題は、廃棄物の最終処分場など、日本でも指摘されているところですが、この問題について、スウェーデンでは市民参加を重視していることが参考になります。
スウェーデンでは、国会がダイオキシン対策に取り組んでいます。そこでは、スウェーデンが抱える対策を講じるべき問題を客観的に分析し、認識、そのうえで4つの目標が掲げられています。すなわち、q残留性のある有機汚染物質から、ヒトの健康と環境を守ること、w食物摂取によるヒトの曝露を減らすこと、e製品からのヒトの曝露を減らすこと、r拡散汚染源、二次汚染源、一次汚染源からの環境への排出を削減することです。このように事実をきちんと認識し、それに対して具体的に対処していく姿勢が日本でも必要であろうと考えられます。
〔藤原寿和さん〕
最後にダイオキシン国際NGOフォーラム実行委員会の実行委員長である藤原さんから、ダイオキシン類対策特別措置法の概要とその問題点、そして提言が行われました。提言としては、具体的には大きく分けて、q規制対象物質の追加、w耐容一日摂取量(TDI)見直し、e基準類の見直し、r規制対象施設(特定施設)の追加、t削減対策の強化、y事故対策の強化、u被害者救援策の確立が挙げられます。
これらの提言に対して、当日の参加者も、積極的に各々の意見をぶつけて下さいました。同氏をはじめとしてダイオキシン・環境ホルモン国民会議では、多くの方の意見を募り、よりよい提言を目指す予定です。
【尾谷・記】
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