ニュースレター 第47号 (2007年8月発行)
フクロウと水牛が活躍?
マレー半島のパームオイル農園

国民会議常任幹事 水口  哲

椰子油に浮かぶ国
 地球温暖化対策として、しばしば、化石燃料からの脱却と、持続可能な開発の推進が挙げられる。両方のカギを握る国の一つがマレーシアである。バイオ燃料の有力候補、椰子油(パーム・オイル)の世界一の生産国である。さらに、その生産にあたっては、生物多様性の保護、減農薬の「総合的病虫害駆除」「廃棄物ゼロ化」という持続可能な開発を意識した取り組みが試みられている。もちろん異論もある。椰子油生産のため、森林破壊が行われている、と。
 現場を見ようと、マレー半島に旅立った。着陸前の光景が見逃せない。「あと30分でクアラルンプール空港」というアナウンスで、窓に駆け寄る。半島内のジャングルを蛇行する大河が見える。続いて、ジャングルを直線で切り裂く道路が現れる。
 「10分で着陸します」というアナウンスのあたりから、風景は一変した。静岡のお茶畑を大きくしたような景観が現れる。それが見る見る大きくなる。油椰子農場だった。高さ6〜7メートルになるという油椰子が整然と植えられている。畑は、空港敷地のぎりぎりまであった。
 空港から市内中心部のホテルまでの間も、車中、油椰子農場を見続けること10分余り。バスガイド氏の説明も、しばらくは椰子油の説明で占められる。大豆油(4000万トン)に次いで世界の植物油の23%(3300万トン、2005年)を占めていること。そのうち43%、つまり1500万トン近くがマレーシアで生産されている。油椰子の果実部は、長さ50センチメートル余、直径30センチメートルほどのフットボール状で、一房に50粒ほどの実がついている。実は形態はザクロ、大きさは甘栗ほどで一粒が20グラム程度だという。
 用途が広い。マーガリン、ショートニング、即席麺、アイスクリームなどの食品から、石鹸、洗剤、化粧品まで。世界中で使われている。近年はバイオ燃料としても期待される。日本が使う椰子油のほとんどは、マレーシアからだという。
 翌日、マレーシア・椰子油局で実物を見て、正式な説明を受け、ガイド氏の説明が概ね正確であることが分かった。椰子油局は、プランテーション産業・商品省に属する政府組織である。椰子油の生産性や商品力の向上を任務とする。近年は搾油後の廃棄物の有効活用にも取り組んでいる。何しろマレーシアの農産物の3分の1、農地の6割を油椰子が占め、100万人の生計手段なのだ。

油椰子を守るフクロウ
 マレーシアは昨年までは、世界最大の生産国だった。しかし、「インドネシアが積極的な農地拡大を続けており、2007年には首位に躍り出る」(ユナイテッド・プランテーション社副社長)とも言われている。椰子油局のジャミール・ラハン広報官も「半島マレーシアではこれ以上農地を拡大できない。幸い、サバ州(ボルネオ)、サラワク州(同)に適地がある。そこで農地を拡大し、現在400万ヘクタールの面積を600万ヘクタールに増やす計画だ」と説明する。しかも、新たな200万ヘクタールは、両州の「原始林ではなく、荒廃林を転換することで生まれる」と。問題は、「原生林、荒廃林、農地というゾーニングがきちんと守られるのかどうか」である。こうした懸念に答えるため、当局とWWF(世界自然保護基金)マレーシアは2003年から「持続可能な油椰子開発」のための経営ガイドラインづくりを進めている。
 PR映画のなかに興味深い光景があった。油椰子農園のなかで、牛や鶏が飼われている。質問したところ、大多数を占める小農(3ヘクタール以下)の所得拡大のため、いわゆる林間放牧の実験をしているのだという。2日後、我々は、タマン・ネガラ国立公園に隣接する油椰子農園で、その実例をみることができた。「ナイト・サファリ」というエコツアーに参加したのだが、四輪駆動を利用することもあり、国立公園内ではなく、農園内の道を通った。
 最初に出会った動物がフクロウ。農園入り口の橋脚から、じっと我々を見つめた。フクロウはネズミを食べる。生きた“殺鼠剤”である。ついで、水牛の群れ。水牛は、草を食む“除草剤”であり、その糞尿は肥料となる。いざとなれば現金化できる“銀行”でもある。幹に君臨する黄金蜘蛛は、虫を食べる“殺虫剤”である。彼らは、総合的病虫害管理を担う“家畜”といえる。
 しばらく家畜ばかり見た後で、「豹の縄張りに入った」というガイド氏の声で、期待と緊張が高まる。が、実際にいたのは豹猫であった。体長50センチメートル余り。油椰子の幹を齧る鼠を食べる。だから豹猫も家畜といっていいだろう。しかし、天上には満天の星、周囲には巨大な油椰子がジュラ紀の大シダ類さながらに揺れる有様は一時、太古の夢を見せてくれた。椰子油、水牛、エコツアーと三重の方法で、収入を得る。しかも農薬を減らす農法は、持続可能性を意識したものといえる。

廃棄物も有効利用
 マレーシア・椰子油局では、廃棄物の有効利用も見学した。油椰子は果実と幹からなる。果実は、外皮、繊維質が含まれた果肉、そして種からなる。種からは椰子核油が、果肉からは椰子油が取れる。搾油後、外皮は合板材料、繊維は合板材料、製紙材料、牛の肥料などになる。幹は、木材代替品として利用される。「廃棄物は、100%活用されている」と、広報官は胸を張る。
 しかし、3日後に訪問した搾油工場では、別の現実を見た。日産2000トン、従業員90名余と中規模工場である。油椰子が、テニスコート4面大の場所に山積みになっていた。天ぷら屋の厨房に紛れ込んだような香りに頭がくらくらする。ここでは、搾油後の外皮、繊維は分別するが、「売れ行きは6割程度」(ボーイ・パク技術主任)という。研究所の理念と工場での現実で、ズレがあるのは非難には当らない。半島マレーシアに限って言えば、持続可能な油椰子産業に向け、努力が払われている、と思われる。

                (編集部)

油椰子の幹は、木材として利用できる。

 

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