環境法の今・第24回
有害金属管理の動き
市民科学者、国民会議常任幹事 小椋 和子
「有害金属管理の動き」の課題で執筆することを引き受けたのは、地元世田谷区に建設中のガス化溶融炉および灰溶融炉が本年12月から本格稼働することがきっかけである。溶融炉は技術的に完成しているとはいえないので、建設が表面化した平成13年頃から「せたがやごみをへらす会」を結成して建設反対運動を行ったが地元の援軍を得られず建設されるに至ってしまった。
平成13年度のPRTR報告によると解体前の世田谷清掃工場は東京で2番目に多い3gTEQのダイオキシンを発生させた。新しい工場は高温焼却なので重金属の発生が懸念された。調べてみると先進国ではほとんど整備されているにもかかわらず日本では焼却炉からの重金属の排気基準が無いことがわかった。そこで土壌の環境調査を建設責任者および区に依頼したが拒否され、私たちの手で行うことにして昨年度「草の根市民基金」から助成を受け、水銀、カドミウムならびに鉛について稼働前土壌調査を行うことが出来た。
重金属管理に関して印象に残ったことがある。2000年8月、私は日本生態系協会が企画した「アメリカ西海岸自然環境に配慮した開発への取り組み」の調査に参加した。その頃、カリフォルニアの水管理計画が多くの利害関係者の参加の下で策定され、丁度滞在中に連邦と州との間で調印がかわされた。
ここで述べたいのはその旅の途中の出来事である。無人のガソリンスタンドに立ち寄った際にカリフォルニアのプロポジション65(州法)と記されたパネルに蓄電池の鉛についての警告が記されていて日本との差に愕然としたことを思い出したのである。鉛は子どもの知能の発達に影響を与えることが知られている。
筆者は水質の講義もしてきたので水道水を基準とした水質管理は有害物質に関しては排水基準を除き、全く安全とはいえないがかなり優れた規制だと認識していた。排出基準は水も空気も濃度ではなく、総量にするべきである。水道水は50年間飲み続けても健康影響がないように基準が求められているが、現在は水道水以外の水を選択する機会がある。
それに対して転地でもしない限り吸う空気の選択は出来ない。日本では大気の環境基準がほとんどないのは一体何故なのだろう。有害有機化合物についても述べたいがここでは重金属に限るとようやく平成15年になってニッケルと水銀化合物の指針値が設定されたのである。
水および大気にひきつづき土壌であるが、農用地の土壌汚染についての基準は以前からあったが、一般用地については平成14年に土壌汚染対策法が初めて制定された。これも各国の法律にくらべて測定法や細かい規制について問題がある。
水、大気、土壌どれについても日本の法律は被害を受ける人や生物の特性が考慮されていない。人に限っていえば、子どもや病人、老人、ある体質を持った人でも安心して生活できるようなきめの細かい対策が求められているのにほとんど強い男性が対象ではないかと思うような管理政策が行われている。
欧州連合(EU)が1990年代から計画してきたRoHS指令(有害物質を含む電気製品を市場に出さないための指令)ならびにWEEE指令(廃電気製品のリサイクルをうながす為に製造時から最適な設計を行う指令)が施行された。ほとんどの日本の電気メーカーはすでに対応が終了済みだそうで、ある化学物質管理の講演会で質問したところ、国内向けも対処済みとのことである。常に海外向けだけに対応してきたメーカーであるが、国内に対しても対策を取ったとのことで、もし事実とすればEUのおこぼれで日本人も恩恵を受けるというものだ。
大部分の読者はご存知と思うが、この指令の根本精神はリオ宣言の第15原則の「環境保護の予防的方策は、深刻なあるいは不可逆的な被害の恐れのある場合には、完全な科学的確実性の欠如が環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由としてはならない」である。
RoHSで規制される含有物質はカドミウム、鉛、水銀、六価クロム、臭素系難燃剤のPBB、PBDEである。これらの有害物質が混入している電子電気製品が不用となった後のリサイクルおよび廃棄される際の環境汚染ならびに健康被害を回避するために設定された。なお、中国ではREACH(EUの化学物質製造の新しい概念の規制)も含めこれらの法律がすでに整備されているとの情報があるが、精査をしていないので真偽のほどは不明である。韓国でも準備しているとのことである。
電気製品と限らずすべての商品が「ゆりかごから墓場まで」の段階できちんと安全が保証されたもので製造され、正確な情報開示が行われるべきだと思う。
一方、国連環境計画(UNEP)では国際的観点での有害金属対策を計画し、各国で検討を開始した。日本でも環境省が「有害金属対策策定基礎調査専門検討会を平成18年度に設置し、検討を開始した。主として環境監視システムを構築すること、製品中有害金属の含有量測定、マテリアルフロー、排出インベントリー作成の基礎調査、アジア太平洋域の環境監視のための基礎調査を行うことを目的としている。対象金属は当面鉛、カドミウム、水銀である。すでに2回の検討会が行われており、環境省のホームページに掲載されている。
我が国は火山国であるので鉱山が多数あり、現在は金以外はほとんど採掘されていないが、過去の負の遺産である鉱滓が原因で土壌汚染が全国にある。鉱山を原因とする公害事件の典型が足尾鉱毒事件、カドミウムによるイタイイタイ病、宮崎県土呂久のヒ素汚染である。歴史の中から消されたであろう大仏建立時の水銀汚染もある。各地に残されている丹生という地名は水銀を算出した地域である。
水俣病は工場排水中の有機水銀が原因であるが、無機水銀からでも有機水銀は生成する。マグロやクジラなどの大型の海の動物は有機水銀濃度が高いが、自然起源由来である。カドミウムは水田からイネに速やかに吸収される。水田土壌の有害物質を除去する方法は土壌の入れ替えしかない。カドミウムを多く含むコメを調査したところ以前は工場廃水が原因であったことがあるが、焼却炉が指摘された。焼却炉から水銀やカドミウムなどの重金属が排気されていることは明らかである。呼吸で取り込む場合には食物から摂取するよりも血液に溶解しやすいといわれている。カドミウムはイタイイタイ病を発症させた腎障害というよりも発ガンなど別の悪影響の恐れがある。環境省に対しては焼却炉の排気基準の早期設定と焼却炉の稼働にあたっては周辺の環境調査および健康調査の法制化を求めたい。
|