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講師:黒田洋一郎氏
(東京都神経科学総合研究所・分子神経生物学、神経毒性学、CREST) |
新堀和子氏
(「全国LD親の会」理事) |
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連続セミナー第4回目は、子どもの脳の発達障害をテーマに開催されました。脳科学研究の第一人者である黒田氏からは、LD、ADHD、高機能自閉症などの軽度発達障害に関する研究成果や、今後期待される早期発見・早期診断、さらに予防や根源的治療の可能性について、最新の知見をもとにお話していただきました。また、「全国LD親の会」理事の新堀氏からは、LDの早期発見・早期療育を目ざして活動する「全国LD親の会」の取り組みや、教育や支援の現状についてお話していただきました。
●子どもたちの脳に何が起きているか(黒田洋一郎氏)
発達障害の研究は、近年、脳科学の最新の知識と技術が応用され始め、ようやく盛んになってきました。最近では、発達障害の原因や脳の中での変化の研究が進み、軽度発達障害の早期発見・早期診断、さらにはその予防や根源的治療について新しい可能性が出てきつつあります。
もともと、あらゆる病気の原因には、遺伝因子と環境因子が共に関係しています。ところが、昔から「訳のわからない病気は遺伝では」といった非科学的な考え方があり、発達障害の原因についても、「主に遺伝子の異常である」などといわれてきました。そのため、軽度発達障害の子どもをもつ親は、「親からの遺伝で、子どもが発達障害になったのではないか」と落ち込むことも多かったのです。しかし、ヒトの行動と遺伝子の関係を調べる研究が進歩し、また、子どもの発達障害の原因が環境ホルモンなどの化学物質である可能性を示す研究成果が増えるにしたがって、従来の遺伝因子を強調する説への批判・反省が大きくなり始めました。
遺伝子が原因であるとすれば、遺伝子そのものの異常を変えなければなりませんが、それはできません。しかし、環境因子が原因や危険因子のひとつであるということがわかれば、それを除いたり変えたりすることによって、予防や治療ができる可能性があるのです。
脳は、数多くの遺伝子が順序良く働く(発現する)ことによって神経回路が作られ、発達します。遺伝子が正常であっても、遺伝子の働き(発現)に異常があると、脳の機能発達に障害が生じるのです。遺伝子の発現・神経回路の形成には、ホルモンで調整される部分と、環境からの刺激に基づく神経活動で調整される部分とがあります。ここで重要なのは、環境化学物質が、遺伝子発現の双方の仕組みに影響を与えていることです。例えば、PCBは、甲状腺ホルモンの働きをかく乱します。ホルモンを介する先天的な脳の発達過程に障害を与えているのです。また、殺虫剤・農薬などは、神経活動依存性の遺伝子の働きをかく乱します。脳の発達で特に重要な、後天的に獲得される発達過程にも障害を与えているのです。つまり、親や先生が適切にしつけや教育を行った場合であっても、子どもの脳がそれを受け付けられず、無効になる可能性が高いということです。しかし、逆に、これら発達障害の子どもも、適切なケア・支援教育を続ければ、年齢が進むにつれて正常に戻っていく場合があることも知られています。
発達障害の原因を研究することによって、早期発見、早期治療、支援、予防が可能になります。これらが有効であることは、クレチン症の例からも明らかです。重い知的発達障害を伴うクレチン症では、母親の周産期におけるヨード不足による甲状腺ホルモン濃度の低下が原因であることが分かりました。そのため、予防システムや早期発見・診断、治療法が既に確立しているのです。環境化学物質が原因らしいとわかれば、特にこれから妊娠する女性は、PCBや農薬の入った食べ物は食べないなどの予防法が可能になります。
脳の研究は現在進行形のことが多く、子どもの脳に何が起こっているのかは、詳しいことはまだよく分かっていないのが実情です。これから段々と明らかになっていくことだと理解していただきたいと思います。
●早期発見・早期療育をめざして〜LD親の会の取り組み〜(新堀和子氏)
全国LD親の会は、1990年2月11日、9団体を発起人として設立されました。現在、37都道府県、44団体、総会員数は約2900名にのぼっています。
LDの子どもを持つ親にとっては、「子どもたちが自立した豊かな社会生活を送ること」が切なる願いです。まず、LDなどの発達障害のある人を知ってほしい、分かってほしいという思いから、教育・医療・福祉・労働などの問題について、各関係団体・機関と連携しながら活動に取り組んでいます。
LD(学習障害)とは、基本的には全般的な知能発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を示すことをいいます。その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されていますが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接的な原因となるものではないと考えられています。LD児の発達には個人差があるので、専門家にも見過ごされやすいのが特徴です。障害と分かりにくい微妙な問題が子どもにあると、育てにくく更に問題を大きくしてしまうことになりかねません。また、このような子どもたちの教育を考えることは、一般の子どもたちの教育を考えることに繋がります。一人ひとりの子どものニーズに合った教育が必要ではないかと考えているのです。
また、親が子どもの障害を受容できるかどうかも問題です。障害者手帳があるかどうかによって、受けられる福祉サービスの内容が全く違ってくるのですが、なかなか子どもの障害を受容できず、障害者手帳の交付を拒む親も多く見受けられます。ただし、障害者手帳の有無にかかわらず、子どもたちが生きづらい社会であることは一緒です。親の会としては、このような課題を克服するために、相談会や講演会、懇談会を開催したり、各地域の支援団体との交流を深めるなどの活動に取り組んでいます。
厚生労働省では、早期発見・早期支援のための重要事項を掲げています。親の会では早期発見のために母子手帳に気づきの項目を入れることなどを提案していますが、親としては子どもの障害を認めたくないという気持ちも強く、更なる工夫も必要なのかもしれません。保育所や保育園における適切な対応も挙げられています。実際に、保育士が子どもの障害に気づく場合があるのですが、なかなか親には伝えられないのが実情です。未だ支援制度が整っていないことが原因の一つと考えられています。
しかし、早期発見・早期支援が重要であることは明らかです。発達障害をもつ子どもたちは、幼い頃から失敗の経験の連続で、自己肯定感も低くなります。そのため、良好な人間関係を築けず、大人になってから精神障害に陥る可能性が高いのです。また、子どもたちが早くから社会性を身につけることも重要です。お金の使い方、そして選択の教育、さらに体力を身につけることが必要なのです。
今般、学校教育法が改正され、来年度から特別支援教育がはじまります。子どもたちを取り巻く人々の連携が課題となっていますが、特に、教育現場においては、担任の先生だけではなく、学校全体でサポートする体制を整えてほしいと願っています。
今後も、「大人は子どもの応援団」という姿勢で、活動に取り組んでいきたいと思います。
(子どもプロジェクトチーム・下条珠美)
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