ニュースレター 第43号 (2006年11月発行)
グローバル化を描く2つの環境映画

ヒマラヤの『懐かしい未来』
 標高6000メートル余り、氷河を頂く岩だらけの土地に年間降水量が100ミリ。ところが、食べ物には不自由しない。蔵には2年分の大麦、小麦が蓄えられている。氷河から水路で水を引き、村内の農地を回しているから。
 収穫は家族全員で行う。近隣の人も手伝う。お互い、収穫期が重ならないよう配慮している。手伝ってくれた人にはお金ではなく、食事を振舞う。村の収穫祭は、宴会が1週間続く。大地の恵みが次々登場する。
 最高級のカシミアを生む“パシミナ”ヤギの産地でもある。どの家も大きく、ゆったりと暮らしている。「村で貧乏な人のところに連れて行ってほしい」と頼むと、少し考えてから答える。「この村には貧しい人はいない」と。女性たちは、世界の宝石を身に着けている。
 隣家の赤ちゃんの誕生を喜ぶ。抱きしめる。村中の人が近い関係にある。笑いが絶えない。心豊かに、心静かに暮らす。
 争いはある。しかし、深刻になる前に話し合う。譲り合う。異教徒(ムスリム)も村内にいるが、紛争はない。相互に尊重しあい、祭りにも参加しあう。
 人事も自然の動きもありのままに受け入れる。人は、地域と自然の両方に属するという感覚を持つ。
 そんな暮らしが1970年代の初めまで続いていた。邦の名はラダック。ヒマラヤ山脈の麓、インド最北部に位置する。厳しい自然に加え、西にパキスタン、東に中国(チベット)、北にタクラマカン砂漠。緩衝地帯として独自の発展を遂げた。面積は英国本土並みで、人口は13万人。
 そんなユートピアがつい最近まで存在していたことを教えてくれるのが『Ancient Future Learning from Ladakh』(邦訳『懐かしい未来』)である。著者は言語学者としてラダックと接点を持って30余年のヘレナ・ノボルグ・ホッジ氏。今年の5月、日本のNPO(非政府組織)の招きで来日した。

グローバル化に沈む
 ユートピアは、続かなかった。中印戦争(1962年)や印パ紛争の頻発を機に、ラダックの地政学的重要性に目覚めたインドが70年以降、干渉を強めてからだ。山脈を切り開いて高速道路が作られた。補助金で価格競争力をつけた穀物が、山の向こうから運ばれてくる。地域農業は価格で太刀打ちできない。衛星放送が、パリやニューヨークの流行を伝え、若者の心を捉える。村の祭りが詰らなくみえる。
 インド政府による教育“改革”が追い討ちをかける。教科書は、デリーやニューヨークでも使われているもの。「村の暮らしや生業とは無縁の、国際的、抽象的な内容」(ホッジ氏)。近代教育が、村人を2種類に分け始める。地域内の暮らしや労働を通して得た文化、教育は親たちの世代まで。子どもたちは、地域とは無縁の知識を身に着ける。近代教育を受けても、それに見合った仕事につける若者は一割もいない。残りの9割も、地域に役立つ技術、文化を学んでいないから、地域の生産活動は担えない。失業者が増える。争いが増える。

地域教育で「遠くない未来」を創る
 近代化とグローバル化に沈みかけた時、反転が起きる。ホッジ氏らラダックを愛する外国人と地域の住民が、地域に根ざした教育を再興するためのセンターを作った。それが、生態・文化推進国際協会(The International Society for Ecology and Culture)である。ここを起点に、綻びかけた地域の再生が始まりつつある。
 作品は、「NPO法人 開発と未来工房」が日本語版を制作した。DVDが2500円で購入可能。

来月公開『ダーウィンの悪夢』
 お弁当やレストランで白身の魚フライが入っていることがある。“白スズキ”と呼ばれることもあるので、日本産と思っていた。が、映画を見て、アフリカ産の肉食魚“ナイルパーチ”であることを知った。
 淡水湖では世界第2位の大きさのビクトリア湖で養殖されたものだという。いわゆる外来種で、この魚の放流によって、湖の生態系はもとより、地域が一変する。この魚を加工、輸出する食品産業が勃興し、地域の経済は発展する。が、貧困、売春、エイズなどの負の遺産も積みあがっていった。2006年アカデミー賞作品で、12月から東京・渋谷のシネマライズで公開される。

「ダーウィンの悪夢」 「懐かしい未来」の原書

 

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