食と農のまちづくりで包括的な条例
「今治市食と農のまちづくり条例」は何を示したか
愛媛大学農学部教授 胡 柏
平成18年9月に愛媛県今治市議会は上記の条例を可決し、実施要領を定めた条例施行規則とともに施行された。市町村として食と農のまちづくりに関する包括的な条例をつくったのは、全国的にみても珍しく、内容的にも先駆的との評価に値する特色を持っている。
条例全体に明確なコンセプト
最も注目されるべき特色の一つは、条例全体に明確なコンセプトを持たせた点である。
第2章「食の安全性確保と安定供給体制の確立」における「食の安全性確保」「地産地消」「食育」「有機農業」の推進と「遺伝子組替え作物の栽培許可」の諸条項が、これを示している。同市が目指している農業振興とまちづくりを今後どのような方向性あるいは特色を持って進めていくかが、これらの条項により明確に提示されている。
「遺伝子組替え作物の栽培許可」部分では、遺伝子組替え作物の混入、交雑、および交雑を受けた農産物が種苗法による権利侵害に係る混乱を防止することを柱に、市長による栽培許可および許可への制限、説明会開催の義務づけ、栽培許可者の遵守事項と報告義務、申請手数料など、11条にわたって思い切った内容が盛り込まれている。答申段階の条例素案と比べてやや重過ぎた感もあるが、科学進歩の推移を見定めながら調整可能である。
近年、食の安全性や環境保全、地産地消といった用語は流行語のように使われるようになった。したがって、単にこの種の用語を使ったからといって特色を打ち出せるとは言い難い。しかし、同条例は、昭和63年と平成17年の2度にわたって議決された「食料の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」の実効性を確保するためのものとして、これまでに進めてきた有機農業や有機農産物を使った学校給食の取組みを反映した内容となっているところに、今治的とも言うべき特色がある。
平成の市町村合併により、同市は条件的に比較的均一な旧今治市から都市、山間、島しょ部等多様な地域を包摂する新しい今治市となった。こうした変化を踏まえ、同条例は地産地消や有機農業における今治的特色を明確にしながらも、山、川、海、しまなみを意識した包括的な農林漁業振興、地域振興策を打ち立てている(第3章および条例施行規則)。
コンセプトと実効性を兼ね備えた基本的な条例として、今後、ユニークなまちづくりと、食と農と景観資源を活かした幅広い地域振興策の立案に大いに役立つものと考える。
開かれた地産地消
条例のもう一つの特徴は、開放的な港町にふさわしい特色を持っている点である。地産地消を基本コンセプトの一つとしながらも、閉鎖的な地域主義を押し進めようとするのではなく、「地域資源の活用と流通過程のコストの低減を目指し」た、食と農に関する広い視野を持たせている(第2条)。時間のスパンを意識した条例検討の結果を反映したものである。
パブリックコメントの段階でポジティブリスト制度が実施されたが、その前に答申として提出された条例素案には、農林漁業者、食品関連業者に化学合成資材や食品添加物等の使用における安全性遵守への参画を義務づける条項が盛り込まれていた(最終的には、条例施行規則の条項となったが)。これも、国政に先駆けた地方からの発信としてこの条例の特色の一つと見るべきであろう。
※今治市食と農のまちづくり条例骨子
http://www.city.imabari.ehime.jp
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