| 勝訴判決相次ぐシックハウス・化学物質過敏症
副代表 神山美智子
電気ストーブで化学物質過敏症―東京高裁逆転勝訴判決
2006年8月31日、東京高等裁判所は、大手スーパー・イトーヨーカ堂に対し、同社が販売した中国製の電気ストーブで、当時受験勉強中の高校生が化学物質過敏症に罹患したとして、既払い金250万円の他に約550万円を支払えという判決を出しました。これは一審東京地裁の原告全面敗訴を取り消した逆転勝訴判決です。
国産の標準的な電気ストーブの場合、ヒーターからヤケド防止のガード部分まで5センチなのに、このストーブは2.5センチしかなく、ストーブを使うとガードが異常な高熱になるというものです。ガード部分にはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂など合成の有機塗料が塗布されています。約30万台が販売され、問い合わせが約70件、うち臭いに関するものが約20件、臭いとして返品されたものも4件あったそうです。
後にイトーヨーカ堂が検査機関に依頼して検査した結果、フタル酸ジエチル、テトラデカン酸、フェノール、安息香酸、ホルムアルデヒド、トルエン、アセトンなど多くの有害物質が発生していることも確認されています。
当時高校生は机の下で部屋の換気をせずに使ったとのことですが、電気ストーブで換気が必要とは誰も思いません。
裁判所は、北里研究所病院の診断書、化学物質過敏症診断基準、厚生労働省の室内空気指針値などを詳細に審理し、原告が上記のような有害物質を吸ったことにより、化学物質過敏症になったと認定したのです。
こうした裁判では事業者の過失(注意義務違反)の認定が難しく、これまでなかなか勝訴できなかったのですが、この事件で裁判所は、イトーヨーカ堂は、販売前に稼働させて異常の有無を確認すべき注意義務や異臭発生の問い合せがあった時点で人体への有害性を検査確認すべき義務があったとし、これに違反した過失があるとしました。
そして、遅くも平成12年中には、シックハウス症候群の報道などを通じて、家庭生活において、建材、塗装、接着剤などの使用により化学物質が発生し、人の健康被害が発生することが知られ、また化学物質への反応には個人差があり、過敏症を生ずることなども一般的に知られていた。」と明確に判断しました。
隣家の農薬で化学物質過敏症―千葉地裁判決。過敏症を真正面から認定した初の判決
2005年11月21日、千葉地裁は、隣家の農薬誤使用により化学物質過敏症になったとして原告6人に総額約530万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
農薬中毒による損害賠償を認めた判決はこれまでもありましたが、化学物質過敏症を真正面から認定したのはこの判決が初めてだと思います。
このケースは、その後控訴審で円満に和解が成立しました。隣家は農薬の定められた使用方法を遵守すること、一審勝訴の農協も今後組合員に使用法の指導を徹底し、使用方法の周知に努めるという条項も入りました。
この農薬は、クロルピクリン35%、ジクロロプロペン60%含有の土壌消毒剤で、農地に注入して使います。注入後はなるべく厚いポリエチレンシートで地表面を被覆し、使用後の缶は逆さにして周囲に影響のない場所で臭いが抜けるまで立てておく、一定期間被覆したまま薫くんを行い終了後にシートを除去する、などという使用方法が定められています。しかし被告の農家はこの農薬の使用方法を読まず、注入後すぐ被覆しなかったため、隣家の住人がガスを吸入して化学物質過敏症を発症したのです。
化学物質過敏症を被害と認定し損害賠償を命じた最初の判決ですが、残念ながら、発症には個人差があるという点を素因減額として3割差し引いてしまいました。
判決によると、「本件農薬によって化学物質過敏症を発症するに至ったのは、原告らの有していた素因もその原因の一つであり、損害の拡大に寄与したことは否定し難い」として、過失相殺の規定を類推適用したのです。
過失相殺とは交通事故などで被害者にも赤信号で渡ったとか、急に飛び出したなどの過失がある場合、この過失分を加害者の賠償額から減額する考え方です。
電気ストーブ事件ではこうした素因減額はありませんが、今後過敏症発症の個人差について研究が進むと、かならず争点になると思われるので要注意です。
最初のシックハウス勝訴判決
2005年12月5日、マンション販売業者におよそ5000万円の賠償を命じた判決が東京地方裁判所で出されました。
業者は販売に当たってチラシ、パンフレットには、次のように書いていました。
「JASのFc0基準とJISのE0・E1基準の仕様
目にチカチカとした刺激を感じるなど、新築の建物で発生しがちなシックハウス症候群。その主な原因とされるホルムアルデヒドの発生を抑えるために、JAS規格で最も放散量が少ないとされるFc0基準やJIS規格のE1基準以上を満たしたフローリング材や建具、建材などを採用。壁クロスの施工などにもノンホルムアルデヒドタイプの接着剤を使用しています」
しかし、原告がマンションの引渡しを受けた後に測定したところ、ホルムアルデヒドが高濃度に検出されました。そのため、いったん搬入した家具などを搬出し、契約を解除して代金のほかローン手数料、カーテン代、引っ越し費用などを請求したのです。事業者がこれに応じなかったため訴訟となり、裁判所は原告の請求を全額認めました。
裁判になってからは鑑定も行われ、リビングダイニングで採取された室内空気からは90〜180μg/立方メートルのホルムアルデヒドが検出されました。鑑定人はこの結果について、「竣工直後の室内ホルムアルデヒド濃度は、相当程度高かったと考えられる」としています。
鑑定時でも指針値を超えていたのですから、チラシやパンフレットの宣伝は嘘だったことが明らかです。
今後の課題
シックハウス・化学物質過敏症の被害は、今までは、裁判も起こせなかったり、示談や裁判所の和解、調停などでしか解決できませんでした。そうしたなか、こうした勝訴判決は被害者にとって力強い味方ができたことになります。
これからは、シックハウス症候群や化学物質過敏症訴訟がやりやすくなりことは間違いありません。が、室内濃度だけでなく、ホルムアルデヒドなどがどこから発生しているのかの特定が求められると思います。生活した状態で損害賠償を請求すると、かならず被害者が持ち込んだ家具によるものだと言われるからです。
しかしこの点も、比較的安価で簡単に測定できる道具なども販売されるようになりました。こうしたものを活用していけば、何とか証明できるでしょう。
今後の最大の課題は、医師がシックハウス症候群や過敏症について正しく認識する、シックハウス・過敏症訴訟に携わる弁護士を増やすなど、人的な力を高めて行くことだと思います。
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