ニュースレター 第43号 (2006年11月発行)
シンポジウム『どうする日本の化学物質管理 −市民からの提案−』報告

国民会議事務局長 中下 裕子

 9月9日、国民会議も参加する「有害化学物質削減ネットワーク」(略称:Tウォッチ)主催のシンポジウム『どうする日本の化学物質管理−市民からの提案−』が開催されました。
 シンポジウムでは、まず、中杉修身氏(上智大)の「化学物質と環境規制」と、浦野紘平氏(横浜国大)の「これからの化学物質管理の方向」の2つの講演があり、これに引き続き、経産省化学物質管理課長の獅山有邦氏と環境省化学物質審査室長の森下哲氏から、それぞれの省の取組みの報告がありました。
 さらに「市民からの提案」として、中下が市民提案の中間発表を行いました。その後、「日本におけるこれからの化学物質管理」をめぐるパネルディスカッションが行われました。
 盛りだくさんな内容でしたが、約100名の参加者は熱心に聴き入っていました。以下、ポイントをご紹介します。

●「化学物質と環境規制」中杉修身氏
 中杉氏は、長く国立環境研究所の研究者として種々の環境調査・研究に携わる一方、国の審議会のメンバーとして環境政策の決定に関わってこられました。その経験に基づき、化学物質に関する環境規制のこれまでの歴史から、調査の体系、リスク評価・管理の手順、製造・使用規制と排出規制の枠組み、規制と自主管理を組み合わせたリスク管理手法、汚染の改善状況、今後の課題に至るまで、化学物質の環境規制全般について包括的・体系的に説明されました。
 その中で、氏は、「化学物質の環境への排出量は徐々に削減され、新たな汚染の発生は減少すると思われるが、過去の負の遺産の解消は容易ではなく、今後も重大な課題となる」と指摘されました。
 例えば、産廃特措法は施行されたが、「その後新たな事例への経費助成は打ち切られることとなり、不法投棄地や過去の処分場跡地に対する汚染浄化対策の見通しは未だ立てられていない」状況だそうです。

●「これからの化学物質管理の方向」浦野紘平氏
 浦野氏は、従来の定量的なリスク評価について、次のような問題点を指摘されました。
@質の違うリスク(例えば交通事故死や自殺のリスクと化学物質のリスク、発ガンリスクと免疫障害・生殖障害のリスクなど)を定量的な数値で比較することはできない。
A定量的なリスク評価のためのデータがそろっていない化学物質が極めて多い。
B必要なデータを得るには莫大な経費と長期間を要するので、進行しているリスクの低減対策に間に合わない。
C単純な因果関係ではなく、多数の複雑な原因がある問題が多い。
D定量的なリスク評価において用いられる不確実係数も仮定的なもので、その選択が少数の専門家と行政官に委ねられているのは問題がある。
 浦野氏はその上で、新しい評価方法として、毒性ランキングによる管理や予防原則に基づく多様なリスク管理、そのための多様な測定・評価方法の活用を提案されました。

●「市民提案の要点」中下裕子
 「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」実行委員会のメンバーを中心として、「新化学物質政策NGOフォーラム」(仮称)を結成し、この間、東京宣言の内容をさらに具体化した市民提案を作成すべく議論を重ねてきました。その中身を中間発表という形で中下から報告しました。
 要点は以下のとおりです。
@基本的方向性に関する提案
・「化学物質安全庁」または「化学物質安全委員会」を設置し、総合的な管理システムを確立すること。
・生産から、流通、消費(使用)、廃棄に至る全過程を通じたライフサイクル管理システムをIT技術を活用して構築すること。
・既存物質・新規物質を問わず、市場に出す前に一定の安全性をチェックする事前審査制度を確立すること。
・定量的なリスク評価・管理方法の限界を踏まえて、予防原則を基本理念に据え、適用のためのガイドラインを策定すること。
・化学物質管理のあり方をめぐる意思決定の場への市民参加を保障すること。
A化学物質の情報の収集・伝達方法についての提案
・データの収集・届出は原則として川上メーカーの責任とすること。
・川下メーカーから用途など化学物質の使用状況を報告する制度を導入すること。
・データのチェック、登録、管理は、前述の「化学物質安全庁」が行うこと。
・届出データは原則として公開とすること。
・家庭用品に使用される化学物質については、その詳細情報(成分、毒性、使用・廃棄方法に関する情報、環境配慮に関する情報など)を消費者に分かりやすく伝達するシステムを構築すること(例;MSDS等の交付の義務付け、GHSに基づく表示制度の導入、環境ラベルの活用など)。
B 管理手法に関する提案
・人や環境に重大な影響を及ぼすおそれがある場合には、原則として規制的手法をとること。自主的管理は枠組み規制や情報公開と併用すること。
・子どもなどハイリスクグループに配慮した管理手法を整備すること。
・環境税などの経済的手法を積極的に活用すること。
・ホットスポットに着目し、複合曝露、複合影響を勘案したリスク評価・管理を行うこと。
C 新たな課題への対処についての提案
・ナノ粒子問題につき、予防原則の適用、市民参加の保障の下に、安全性のチェックシステムを導入するとともに、国民への情報提供を行うこと。

●市民提案を準備中、関心ある方はご連絡を
 現在、経産省産構審化学・バイオ部会化学物質政策基本問題小委員会において、日本の化学物質管理のあり方をめぐる議論が行われています。当国民会議の常任幹事の佐藤泉氏、中地重晴氏がメンバーとして参加しています。
 同小委では、今年中を目途に意見のとりまとめを予定しています。そこで、私たちとしても、それまでに市民提案を完成させるべく準備を進めているところです。ご関心のある方やご意見のある方は、お申し出いただけると幸いです。

 

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