| セミナー「プラスチックごみのここが問題だ!」報告
講師:東京大学大学院新領域創成科学研究科
環境システム学専攻
影本 浩教授
2006年7月14日、東京大学の影本教授を講師にお迎えし、「プラスチックごみのここが問題だ!」というプラスチックごみ中継基地の問題を考えるセミナーを開催しました。プラスチックごみ中継基地の問題に直面している地域の住民の皆さんもたくさん参加してくださり、プラスチックごみ問題への関心の高さがうかがわれました。以下に概要をお知らせします。
容器包装リサイクル法とプラスチックごみ
柏市にある東京大学大学院新領域創成科学研究科では、工学や理学だけでなく、法律や経済、社会学などいわゆる文系の学問も含めて、学際的な研究を行っています。私は、もともとは船舶工学の専門ですが、現在は、環境学研究系に属し、物理・化学・生態系の観点から地球環境工学の分野の研究を行っています。私の研究室では、学生が自分で研究テーマを見つけるのですが、廃プラスチックの問題も、学生がテーマとして選んだことをきっかけに扱い始めたものです。
今日は、プラスチック処理の問題点をお話します。家庭から出る容器包装廃棄物は、廃棄物全体の容積の6割に上ります。そこで、1995年に家庭から出る容器包装のリサイクルを行うという内容の容器包装リサイクル法が公布され、市民が分別して、市町村が分別収集して、リサイクル業者がリサイクルをするということになりました。
プラスチックは、特にかさばりますから、そのまま運ぶことは非経済的です。そこで、自治体は、プラスチックを圧縮して、体積を小さくしてから、トラックで運ぶということを考えました。
杉並病の発生
杉並中継所は、1996年4月から稼動した圧縮処理施設です。杉並区で収集する不燃ごみの約半分はプラスチックで、中継所において容積を8分の1に減容し、年間あたり輸送トラック6400台を節約することができます。ところが、稼動直後から周辺住民に健康被害が発生し、「杉並病」として社会的な問題となりました。公害等調整委員会裁定委員会は、中継所から排出された化学物質が原因であると認定をしました。なぜ、プラスチックを燃やしているわけではないのに、圧縮することで有害な化学物質が排出されるのでしょうか。
プラスチックとは
そもそもプラスチックとは何でしょうか。プラスチックは、高分子です。高分子には天木綿や絹などの天然繊維、紙、皮などの天然高分子と、プラスチックや、合成繊維、合成ゴムなどの人工的な合成高分子があります。高分子とは、低分子のモノマーという小さな単位が線状(鎖状)に千個とか1万個とか、多数つながってできた巨大な分子量(1万以上)を持つ物質です。たとえば、ポリエチレンはエチレンモノマーが、ポリ塩化ビニルは塩化ビニルモノマーが、たくさんつながったものです。鎖状といっても、横一線ではなく絡まった糸のようにつながっているので、途中で切れてしまった部分や、最初からつながっておらず、空隙となっている部分もあります。一見同じプラスチックでも、実はモノマーのつながり方は、全く違っているのです。
モノマーがつながった高分子であるプラスチックは固体ですが、モノマー自体は、ほとんどは気体です。ですから、プラスチックが、圧縮などなんらかの原因でモノマーの鎖が切れて、モノマーが数個、一個の単位になると、気体になって揮発し、人間に取り込まれやすい形になります。実際に使われているプラスチックでは、加工のために、添加剤が使われていますので、切り離されたモノマーが他の物質と結びついて、思わぬ物質ができることもあります。
プラスチック摩擦実験
私の研究室では、ゴミの圧縮過程のように、プラスチックに摩擦や圧縮などの機械的エネルギーを加えると何が起こるのかという研究を行いました。
まず、プラスチックを摩擦させる実験では、ポリスチレン、塩化ビニルなどの代表的なプラスチックを使用しました。イソブタンやブタン、アセトアルデヒドなど、杉並中継所周辺から検出されているのと同じような物質が発生しました。二硫化炭素やベンゼンなど人体に有害な化学物質も発生しました。
特徴的なこととしては、同じ実験をやっても違う結果が出る、つまり再現性が非常に低いということです。プラスチックは製造段階で、いろんな形の空隙や添加剤の入り方など、同じ材料でも違いが出るので、再現性が悪くても仕方ありません。複雑な現象が起こります。
ポリスチレンの場合、高温で熱分解させた時は、95%の割合で原料であるスチレンが検出されることから、摩擦実験における発生物質の組成と大きく異なり、摩擦の場合には、熱分解とは別の反応が起きていると考えられます。摩擦によって、もともと二つずつついている電子が切り離され、フリーラジカル(活性酸素と同様のもの)という、周りの物質と化学反応を起こしやすい状態になっているのではないかというメカニズムが推論されます。
この実験は、空気の中だけではなく、酸素を抜いた窒素だけの環境でも行いました。窒素の中では、空気中の実験ほどさまざまな物質は発生しないので、空気の酸化作用も関係していると思われます。他にも機械的エネルギーによる切断、環化、添加剤由来なども考えられますので、ひとつのメカニズムだけによって起こっているわけではないということは言えます。
プラスチック圧縮実験
圧縮実験では、摩擦の起こりえない状態と、摩擦の起こりうる状態で、直径30センチぐらいの筒にプラスチックを入れて直接的に圧縮をしました。ポリエチレンの例では、摩擦と圧縮の場合では、ベンゼン、トルエンはどちらでも発生しましたが、その他については、発生する物質が違うので、発生のメカニズムが違うのではないかと思われます。
実験的な事実としては、ある特定の日の杉並中継所から検出された化学物質と実験で発生した化学物質を比較すると、半分ぐらいは同じで、残りの半分は違ったということです。実験は、純粋なプラスチックのみで行いましたが、ゴミには水分や金属等が含まれているので、それらも複雑に影響するでしょう。
プラスチックごみ中継所の問題点
プラスチックのリサイクルには、粉砕などの過程があります。その過程でも、特に裁断では、機械的なエネルギーがかかるので、実は、圧縮だけが問題ではありません。圧縮減容、破砕、粉砕、裁断、RDF(固形燃料)製造などでも、化学物質が発生しているのではないでしょうか。
プラスチックごみの中継所は、これからもたくさん建設が計画されています。杉並だけではなく、日本全体や世界の問題であり、また現代だけでなく将来の問題です。杉並はプラスチック以外の不燃ごみも集めていたから問題が起こったのであり、プラスチックのみを分別収集していれば有害な化学物質が出ないということではありません。
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