ニュースレター 第41号 (2006年6月発行)
公害被害者から環境保護活動家へ
中国の農民・陳法慶が自費で環境広告を出稿した理由

中国に環境保護運動の芽生え
 黄河の断流、黄砂の舞う内モンゴルの砂漠、化学工場の事故による黒竜江の水質汚濁、武漢、南京、重慶など大都市の大気汚染、三峡ダム建設に伴う長江の水質汚濁。旧式の国営工場からの排水汚染。現代中国はしばしば環境汚染のデパートの様相を呈している、とも言われる。
 しかし、中国社会も手をこまねいているわけではない。日本の国会にあたる全人代で昨年3月循環型社会を目指すことが国づくりの大方針として発表された。各種リサイクル法の準備も進んでいる。市民レベルでは、各地に様々な環境保護運動が芽生え、個性的な活動家が生まれている。

HPでアドバイス
 例えば浙江省の農民出身の環境保護活動家・陳法慶氏。「空前の環境訴訟ブームにある」(中国の通信社、新華社)中国で、公害に悩む中国人に無料で環境保護のアドバイスを行っている。昨年6月に開設された陳氏の公式HP「農民陳法慶環保網」(環境保護ネット、http://www.nmcfq.com)には多数の国民が訪れる。これから役所に陳情したい、環境訴訟を行いたい、マスコミに問題を取り上げてもらいたい、しかし方法が分からないという人々が、HPを通して陳氏に相談を持ちかける。訴訟で救済を得られなかった人も彼に助けをもとめる。
 メール、電話、FAX、手紙などを利用して、陳氏は、具体的なやり方をアドバイスする。陳さんのHPで、それらの人々の事例を公開することもある。環境保護で全国的な有名人になった陳さんのHP自体がメディアになっている。だから、彼のHPに掲載されるとそれは全国的な影響力を持つわけだ。
 「2005年十大公益人物」(中国民政部主管の『公益時報』)、「2005年中国で最も影響のあった100人」(中国内外著名人文化研究会および「人物週刊」など国内外のメディア30余社の選定)、「2005年度中国広告業影響力人物」(中国広告協会と現代広告雑誌社の選定)などに選定されている。2005年のトリノ冬季五輪の中国での聖火ランナーもつとめた。

自費で環境広告を出す
 そんな陳さんの自宅で、話を聞くことができた。場所は上海に隣接する浙江省の省都杭州市内から車で2時間ほどの距離にある同市の余杭区仁和鎮奉口村。3階建て総計200へーべはあろうかというコンクリートの家には、本人、奥さん、養父母、14歳の娘さんの5人が暮らす。
 自分は「一農民に過ぎない」と本人が語る陳さんを一躍全国的な有名人にしたのが、昨年6月、中国最大のTV局中央電視台の人気インタビュー番組「面対面」での出演である。陳さんが取材されたきっかけは、彼が自費で行った中国初の市民による環境広告である。
 「環境にやさしくすることは、自分にもやさしい。 提供:農民陳 法慶」というキャッチコピーで、杭州電視台や人民日報などに出稿された。
 陳氏が広告を出すようになった経緯はこうである。自宅付近の石材加工場からの粉塵と騒音が激しくなったのが2002年の初め。公害を軽減する措置を取るよう工場や地方の政府に陳情を繰り返した。が埒があかない。そこで、自力で原因と被害の調査を行い、記録した。それをもとに、企業の汚染責任と地方政府の行政責任を地方裁判所に訴えた。法廷は前者は認めたものの、後者については訴えを棄却した。


環境政策の欠陥に気づく

 中国の環境管理制度では、公害企業は汚染排出課徴金を政府に支払えば、操業を続けることができるからだった。裁判を通じ陳さんは、中国の環境政策の欠陥に気づくようになった。同時に、それを許しているのは国民の環境意識の低さが背景にあると考えるようになった。
 ある時、テレビアニメのきれいなCMを見ていた。良い広告を出せば、一般の人の理解も進むのでは、と思いついたという。早速、地元のテレビ局と新聞社に飛び込み、「自費で環境広告を出したい」と切り出した。テレビ局は、面白い話だから「ただで広告を掲載しましょう。それとも番組で取り上げましょうか?」と聞いてきた。しかし、陳さんは「自分でお金を出したというインパクトがほしい」と言って、局の申し出を断った。テレビ局は大幅に料金をディスカウントしてくれた。2万元(約30万円)で、30秒のコマーシャルを1日数回、2週間余り流してくれた。新聞社もまけてくれた。
 これに自信を得た陳さんが次に向かったのは北京だった。中国最大のテレビ局である中央電視台と、最有力紙の人民日報である。前者は、「前例がない」と掲載を拒否された。が、後者は掲載に応じてくれた。しかも割引料金で。これが中央電視台の記者の目に留まり、同テレビ局の人気番組『面対面』への出演につながった。番組の録画を見ると、最初、「有名になりたいから広告を出したのか?」と辛らつな質問を繰り返していたキャスターが、次第に陳氏の環境を守りたいという情熱に引き込まれていく様子が分かる。
 その後、陳さんは、環境問題に悩む全国の中国人の相談相手になっている。地方政府も陳さんの意見を折りに触れ、求めるようになったという。自らを「農民 陳 法慶」と名乗る、そして名刺にもそう記載する彼の職業は建設業と養豚業である。

                   (編集部)

(注)取材は、早大大学院アジア太平洋研究科の原剛主宰の「環境と持続可能な発展プロジェクト」に同行することで可能になった。

 

前のページに戻る