| 炭素税は温暖化防止に必要不可欠な政策
気候ネットワーク 畑 直之
●CO2が減らない原因は政策にある
2004年度の日本の温室効果ガス排出量は基準年(1990年度など)比で8.0%増加、中でもエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)は1990年度比12.9%増となっており、削減が進むどころか増えてしまっています。
なぜエネルギー起源CO2の排出量は増えているのでしょうか。1990年以降、日本は大幅な経済成長を遂げた訳でも、CO2排出に影響の大きい製造業の生産量が急増した訳でもありません。主な原因は、オフィスビルやそこで使われるオフィス機器の増加、自動車の増加、家電機器の増加、それに効率向上(省エネ)や自然エネルギーの技術の導入・普及が滞っていることが挙げられます。交通手段がCO2排出の多い自動車にシフトしてしまったり、日本全体としての効率向上(省エネ)が進まなかったり、自然エネルギーの技術の導入・普及が滞っているのは、技術ではなく、政策や制度の問題であると言えます。
今、CO2削減に実効性のある政策の強化・拡充が急務です。中でも、化石燃料に課税する炭素税(環境税)は、企業や個人すべての主体に対して価格インセンティブ効果で削減を促すことができる、必要不可欠な政策です。
●炭素税導入はなぜ実現しないか
税制は極めて政治的なテーマですので、その変更や導入は与党(主に自民党)での議論によって決まります。プロセスとしては、政府(炭素税の場合は環境省)が導入を提案し、それを受けて税制調査会など与党において議論が行われ、可否が決まります。炭素税(環境税)の場合、環境省は2004年と2005年の2年連続で環境税導入を提案しましたが、結局先送りとなっています。
炭素税の導入がなかなか実現しない原因のひとつとして、日本経済団体連合会など一部の産業界の人たちの反対があります。私たち地球温暖化問題に取り組む環境NGOは、炭素税導入を目指して様々なセミナーやシンポジウムを開催してきましたが、反対する人たちとの議論はお互いにかみ合わないことが多いため、反対派のパネリストを招くことには消極的でした。
しかし、導入反対の立場の方々を含め、様々な意見を持つ人々が集まって議論し今後を展望する場も必要であることは確かです。そこで3月末に、右上のようなシンポジウムを開催しました。
このパネリストの中では、永里氏と糟谷氏が炭素税導入に反対の立場でした。このように反対の立場のパネリストも参加して炭素税について議論する公開のイベントは、2003年9月に環境省が主催して開催された「温暖化対策税を環境大臣と語る集い」以来のことでした。
●経済同友会の提言の意義
このシンポジウムでは、経済同友会の柿本氏が出席したことも注目されます。経済同友会は今年1月、「環境配慮型の税体系を考える〜地球環境を保持する国民的ビジョンの構築に向けて〜」と題する政策提言を発表しました。その中で、地球温暖化問題と税制の関係、特に政策としての炭素税(環境税)について検討を加えています。まず環境省の環境税案については、財源確保のための単純増税で既存エネルギー税の見直しに踏み込んでいないとして反対の立場を示しつつ、炭素税そのものについては、インセンティブ効果とアナウンスメント効果でCO2排出を抑制する政策手法として評価しています。また不特定多数の対象を誘導する政策であり、家庭・業務部門に向けても効果があるとしています。税収は一般財源にすべきとし、試算例においては炭素トン当たり10,000円という税率が示されています。この提言書は炭素税導入の意見を表明するものではありませんが、経済団体が政策としての炭素税について適切な認識を示したものとして評価できます。
●炭素税反対の意見は妥当か
次に、炭素税導入に反対する意見が妥当なものかどうか、見てみましょう。
○国際競争力など経済への影響について
炭素税への代表的な反対意見は、国際競争力など経済へのマイナス影響を懸念するものです。炭素税は化石燃料消費を減らす政策ですから、その部分ではGDPは確かに小さくなりますが、マクロ経済的にはマイナスはごく微小ですし、省エネ・自然エネルギーなどの産業ではむしろプラス効果を生じます。高付加価値な環境産業の発展は、国際競争力にもプラスになります。エネルギー集約型の素材製造業の国際競争力には確かに影響がありますが、協定などによる条件付軽減などの制度設計の工夫で対応可能です。また、税収中立型の制度設計なら経済全体の税負担は変わりません(増税にはならない)。
○削減効果について
炭素税に対して、その価格インセンティブによるCO2削減効果について疑問視する意見があります。短期的には確かに価格による削減効果は小さいですが、エネルギー管理や合理化など使用時の工夫による省エネ(CO2削減)は行われます。中長期には、工場の設備や機器・家電・車などの置き換わりにより、より大きな削減効果が得られます。日本は確かに省エネ先進国ですが、原油価格が急落した逆オイルショック(1986年)以降は効率向上は停滞しており、省エネ(効率向上)の余地は十分にあります。また市場要因である原油価格の高騰と、政策として導入する炭素税は「別物」です。
○他の温暖化政策との関係について
炭素税よりも、個別分野の温暖化政策や普及啓発を優先すべきとの意見もあります。個別分野の温暖化政策や普及啓発と炭素税は「二者択一」ではなく何ら矛盾しないものですから、両方(全部)行えば良いだけのことです。
●市場経済にCO2コストを織り込む
炭素税関係の今後の動きを見てみましょう。
間もなく6〜7月には、炭素税と関係の深い道路やエネルギーの特定財源・特別会計の改革を含む「歳出・歳入一体改革」の取りまとめを経済財政諮問会議が行い、それを反映する形で「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2006」が閣議決定されます。
炭素税自体については、環境省が夏以降どのような炭素税導入の税制改正要望を出し、年末に向けて与党税制調査会などがどのように議論を行うのか、注目されます。
また、炭素税と関係の深い石油特会(石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計)と電源特会(電源開発促進対策特別会計)の2つのエネルギー特別会計は、2007年度に統合が予定されています。
いずれにせよ、京都議定書の目標達成だけでなく、今後長期に渡ってCO2削減を進めるには、市場にCO2コストを織り込んで経済を温暖化防止型に変えることが必要不可欠であり、それには炭素税の導入が必須なのです。
●3月末のシンポジウムの概要
◇タイトル 気候変動/地球温暖化に対処するための税体系を考える
◇日時 2006年3月29日(水)18:15〜20:50
◇場所 星陵会館ホール(東京都千代田区)
◇主催 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
◇共催 気候ネットワーク、炭素税研究会
◇プログラム(※敬称略)
18:15〜18:20:趣旨説明
18:20〜18:45:報告「地球温暖化に対処するための環境税/炭素税の経緯、炭素税研究会の提案」
畑直之(炭素税研究会/気候ネットワーク)
18:50〜20:50:パネルディスカッション
<テーマ>気候変動/地球温暖化に対処するための税体系のあり方(炭素税(環境税)/既存エネルギー税/特別会計等のあり方)
<パネリスト>
柿本寿明(経済同友会「環境税を考えるプロジェクト・チーム」委員長/日本総合研究所シニアフェロー)
永里善彦(株式会社旭リサーチセンター代表取締役社長)
糟谷敏秀(経済産業省環境政策課長)
鎌形浩史(環境省環境経済課長)
足立治郎(炭素税研究会/「環境・持続社会」研究センター)
<司会>植田和弘(京都大学教授) |
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