| 鉛のリスク削減に関する提言
常任幹事 山田久美子
国民会議では、特に子どもを鉛曝露から守るため、2006年5月、厚生労働省、環境省、文部科学省、経済産業省の各大臣に対し、『鉛のリスク削減に関する提言』を行いました。以下に、この提言に至った経緯および概要と、各省の対応に関して簡単に報告します。
【1】提言に至った経緯
2005年2月3日、米国消費者製品安全委員会(以下、米国CPSC)から、子ども用の金属アクセサリーの一部が高濃度の鉛を含有していることが報告され、併せて子どもに対する鉛に起因する潜在的な健康上の危険性を低減する暫定方針が示されました。これを受けて、米国では、CPSCの定めた基準(含有濃度0.06%、溶出量175μg)を超える金属アクセサリー類の回収が行われ、カナダでも同様の対応が執られています。
そのため、東京都が、都内で市販されている金属製アクセサリー76品目について分析調査を行った結果、同含有基準を超えるものが46品目、このうち50%以上の高濃度で鉛を含有する製品が32品目もあり、わが国でもこの問題を看過できない状況であることが判明しました。また、本年2月には、アメリカで4歳児がブレスレットの一部を誤飲し、鉛中毒で死亡していたことが報道され、社会的関心が高まっています。
鉛問題に関して、社会状況の相違はあるものの、欧米では10年以上前から鉛曝露によるリスクを低減するための総合的なプロジェクトが行われてきています。特に近年は、急性中毒のみならず、低濃度曝露によっても、脳神経系の発達障害によるIQの低下など、子どもの生涯にわたるQOLを低下させるとの研究報告が多数あって、各国は子どもの曝露低減を推進しています。
しかしながら、アクセサリー問題に関してわが国では、厚生労働省と経済産業省が、関係業者に鉛を含む製品の取り扱いの有無を問うアンケート調査を行ったに過ぎず、対策としてはきわめて不十分でした。また総合的な鉛問題に関する省庁横断的なプロジェクトがなく、わずかに各担当部局が縦割りで対応して来たに過ぎません。このような状況が判明したため、国民会議としては以下のような提言をすることになりました。(http://www.kokumin-kaigi.org/pdf/pb060511.docに掲載)
【2】鉛提言の概要
提言は緊急性のある鉛アクセサリー問題対策と、総合的リスク削減にわけて提示しました。
第1 提言の理由
@鉛の毒性については、特に子どもへの毒性の特徴である、小児期の鉛曝露による心身の発達障害、低濃度曝露によってもさまざまな障害を惹起するとの多数の研究報告がある。
AOECDで採択された鉛リスク削減宣言や、G8の環境大臣によるマイアミ宣言における、環境中の有害物質から子どもの健康を守る対策事項の一つとしての鉛曝露の低減に基づき、欧米各国は総合的なプロジェクトを展開している。
B一方、わが国では加鉛ガソリンの廃止、水道水への鉛管の代替化を行ってきているが、鉛とその化合物の用途と使用状況(鉛バッテリー、金属アクセサリー、塗料など)を見ると、対策や規制が不十分であり、その後の曝露実態等の調査も十分なされていない。
C環境中の鉛も放置されたまま、除去対策は進んでいない。
D省庁横断的な総合プロジェクトが行われておらず、国民(特に子ども)の鉛への暴露実態が明らかになっていない。
第2 提言の内容
1.金属アクセサリー類に含有される鉛に関する提言
@徹底した実態調査および溶出試験の実施
A「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(家庭用品規正法)に基づく指定、含有および溶出基準の設置
B基準を超える金属アクセサリー類の回収命令の発布
C危険性についての周知・情報整備と提供
D製品への警告表示の実施
E家庭用品規正法(厚生労働省管轄)と家庭用品品質表示法(経済産業省管轄)の統合
2.総合的鉛リスク削減対策の提言
@組織体制の整備等
*省庁横断的な体制の設置と、戦略的なリスク削減対策の立案・実施
A各種実態調査の実施
*金属製アクセサリー類及びその他の生活用品に含まれる鉛・環境中の鉛による、子どもの曝露実態の調査の実施
B鉛についての諸規制の実施
*製品による鉛曝露のおそれのある場合は法による規制を予防的に実施
*鉛を含有する製品への成分表示および警告表示の義務づけ
*塗料やはんだへの鉛使用の段階的廃止
*鉛弾・釣りの鉛製錘の段階的廃止
*教育施設や公園などで使用される塗料・錆止め剤について鉛の含有および溶出基準の設定と危険性の周知
*廃棄物処理施設から大気中に排出される鉛についての排出規制の実施
*農地土壌の鉛含有濃度基準の強化
C鉛バッテリーの回収義務と適正処理の促進
D鉛に関する情報収集と情報提供のシステムの整備
E鉛リスクとその削減についての教育体制の整備
F調査研究の推進
*子どもを含む国民の血液中鉛濃度の経年調査
*子どもを含むハイリスク・グループの鉛曝露状況調査
*代替化のための技術開発、実践、奨励
【3】各省の対応
関連省庁は四省にわたるため、以下の省と意見交換しました。
@厚生労働省(医薬品食品化学物質安全対策室)
*今回の鉛アクセサリー問題に関しては、経済産業省とともに、関係業者に対する取り扱いの有無を問うアンケート調査を行ったのみ。対策・情報確保のいずれにおいても不十分であるが、これで一旦終了か。
*総合的な鉛リスク削減対策は行っておらず、また今後の対策の範疇にも入っていない。鉛への曝露リスクに関する厚生労働省主導の研究調査もほとんど行われていないため、実態も把握できていない。加鉛ガソリンの廃止、水道水中の鉛濃度基準の改定で、鉛問題をすでに終わったものとして捉えている。
*鉛製品の規制には経済産業省との連携が必要であるが、主体的に動く方針ではない。
A環境省(水・大気環境局大気環境課、廃棄物・リサイクル対策部リサイクル推進室、環境保健部環境安全課)
*提言項目中の、廃棄物焼却炉からの鉛等、重金属の規制に関しては、EUのRoHs指令がらみで予算が取れたため、排ガス分析など(6種の規制有害物質)予備調査を今年度から3年くらいかけて実施の予定。
*提言項目中の鉛バッテリーに関しては、平成17年12月から経済産業省と合同で中央環境審議会において、資源有効利用促進法に基づく回収率とリサイクル率を上げるため、省令改正の検討中。ただしメーカーが弱小であることから、業界との調整が困難で壁に突き当たっている。バッテリーの輸入問題もからんで事態は複雑化している。
B文部科学省(スポーツ・青少年局学校健康教育課)
*部局としては、児童・生徒および教員・保護者への保健教育の一環として、鉛問題への注意を喚起し、啓発することはできるとのこと。
*学校建築の安全基準等に関しては、大臣官房文教施設企画部の担当であり、さらに実際の建築物に関する責任は建設する地方自治体にあるが、保健局の方からこの提言内容に関する鉛リスク削減対策について連絡し、対応を求めることは可能とのこと。
*ただし、すべての施設の鉛調査実施が可能かどうかは、現時点では不明とのこと。
C経済産業省(商務情報政策局製品安全課)
*表示をするについては、その表示の有効性の検証が必要である。そのためにはリスク評価の必要があるが、わが国には、基本となるデータがない。
*家庭用品規正法と家庭用品品質表示法の統合についてはもっともであるし、担当として業務の不都合を感じるので、ひとの健康という視点の家庭用品規正法をベースにした法律の大改正は必要と思う。しかし歴史的な流れの中では、直ちに表示の担当部分を厚生労働省に明け渡すことは事実上、困難であるとの回答でした。
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