| 子どもプロジェクト連続セミナー「子どもに今何が起こっているのか?」
講師:瀧井宏臣氏(ルポライター)/水野玲子氏(「子どもの体と環境を考える会」代表)
5月27日(土)、走り梅雨といわれる雨が続く毎日。肌寒いくらいの陽気のなか、表参道の環境パートナーシッププラザの会議室で、「新子どもプロジェクト」の第1回目のセミナーが開かれました。この天候に関わらず多くの方が参加してくださいました。宇都宮や大阪、福岡など、遠方から足を運んでくださった方まで数名おられ、連続セミナーを始めるにあたって、とても心強い思いになりました。
新子どもプロジェクトは国民会議のこれまでの提言を踏まえ、子どもたちが健康で幸せに生きていける環境づくりを念頭に、昨夏から活動を再開したものです。連続セミナーの第1回目ということで、講演は今の子どもたちが置かれている状況を総体的に理解してもらえるようにと、『子ども達のライフハザード』の著者である瀧井宏臣氏と、カネミ油症問題に長年取り組んでこられた水野玲子氏にお願いしました。
元NHKの社会部記者でもあったルポライターの瀧井氏は、お子さんの酷いアトピー症の経験から、今の子どもたちの回りで起きていることをもっと詳しく知りたいと調査を始められました。調べれば調べるほど、子どもたちに信じがたい変化が起きていることがわかってきて、子どもを取り巻く環境の変化を知らせようと講演活動を続けておられます。今講演もその調査内容を基にお話いただきました。
ここ数年マスコミでも取り上げられるほど、子どもたちの体力の低下は著しいものがあります。1964年から文部科学省(旧文部省)では基礎的運動能力を調査しています。81年と02年の調査結果を比較したところ、02年の12〜17歳の方が50m走、持久走、ハンドボール投げの平均値が下回っていることが明らかになりました。そして、東京学芸大学の近藤充夫教授を始めとする調査で、体力の低下は幼児も同様だと分かりました。86年と97年の結果を比べると、ソフトボール投げ、25m走、立ち幅跳び、両足連続とびこしのいずれも97年の方が下回っています。
また、遅寝遅起きによる生体リズムの崩れから、体温調節が利かない子や血圧が異常な子も増えているとのデータもありました。体温や血圧などは自律神経によって調節されているため、自律神経系の異常や発達不全を疑う専門家もいるそうです。
国立成育医療センター研究所の斉藤博久部長が調査した結果からは、1970年当時では10%にも満たなかったアレルギー体質を持つ子どもは、2000年には90%にも達する状況となり、特異体質であったはずのアレルギーが今では主流となっていることがわかっています。そして、和洋女子大学の坂本元子教授の調査では、生活習慣病の予備群と考えられる、動脈硬化指数や高コレステロール、肥満傾向の幼児も、1984年には17.2%だったのに対し、2000年には31.7%、2倍近くまで増えています。1984年当時のデータでさえ、子どもたちがそんなに汚染されているわけがないと取り合わなかった学会も、今では定説としています。夜更かしによる睡眠の質の悪化や、栄養の偏り(ビタミン、ミネラル、食物繊維の不足)による現代型栄養失調は親の責任ともとれますが、大人社会全体の問題が子どもたちの生活環境にも悪影響を与えているとも考えられます。
夜更かしして朝目が覚めずにご飯が喉を通らない子どもたち。親は親で寝坊して朝ごはんが作れない。そこでマクドナルドで朝ごはんを食べ、近くの公園に行って遊んで、お昼ご飯はメロンパンやあんぱんなどの菓子パンで済ませる。こんな情景が当たり前のようになってきているというのです。時間・空間・仲間が減って外遊びが減少して体力の低下を招き、年間2200時間ものメディア漬けとも呼べるテレビやビデオ、ゲーム、パソコンなどの視聴で、脳にも計り知れない影響を与えているといいます。小学校の授業時間が年間で945時間。算数や国語などの教科に限れば年間約720時間だそうですから、学校での勉強時間の2〜3倍にあたる時間をメディアに費やしている計算になります。乳幼児でも、授乳中や泣き止まない時に親があやす代わりをテレビやビデオにさせている場合、1日平均の視聴時間が長いほど、赤ちゃんの言葉やコミュニケーションの発達に遅れがあると指摘されています。
そのような実態を聞いた後に、カネミ油症での被害者に現れた影響を聞けば、恐ろしさはもっと増します。カネミ油症による次世代への影響は、被害を受けてから数年経った後に妊娠出産した子どもにまで出ていることが、カネミ油症被害者支援センター(YSC)の「油症被害者の次世代健康影響」の聞き取り調査で明らかになりました。これは、米ぬか油に混入したPCBとダイオキシンの経口摂取による被害の実態を明らかにするとても貴重な内容です。
ダイオキシンやPCBなどの内分泌撹乱の影響は、シーア・コルボーンの『奪われし未来』で書かれたように、ホルモン異常をきたすおそれがあることがわかっています。それは動物での影響がわかっているだけで、人間にどのような影響が出るかはわからないと、多くの学会や行政側は見ているといいます。しかし、動物と同様の影響が人間にも出ていると水野氏は指摘しました。
フタル酸エステルも内分泌撹乱作用が疑われている物質で、その尿中の濃度が高い母親から生まれた男児は、肛門と性器間の距離が短縮し、女性化が見られるという「スワン報告(2005)」や、枯葉剤(ダイオキシン)が使用されたベトナム戦争の帰還兵の子どもたちに神経系の異常が見られた例、メチル水銀の汚染による胎児性水俣病の例など、今まで明らかにされている化学物質による次世代影響の実態を水野氏は紹介されました。そして、カネミ油症の被害からわかる次世代影響についての見解を述べられました。
当時、被害者の年齢層はさまざまで、親と一緒に食事をした乳幼児の子もいました。環境ホルモンによる被害は、大人よりも成長発達段階にある子どもの方が懸念されています。それを証明するように、乳幼児期(0〜5才)に曝露した24人中23人が重い病気に罹っていました。白血病や精巣減少症、メニエール病にバセドウ病、思春期遅発など、血液やホルモン系に関わる病気などが多く見られます。また、曝露した親から生まれた2世では、85人中20人が死産や流産、中絶などで出生前後に死亡し、生後の新生児死亡が3人。合計約1/4の2世が死亡しています。そして、出生前後の死亡割合はカネミ3世の場合も同様であったといいます。中には黒い赤ちゃんの死産の例も報告されていました。黒い赤ちゃんで現在成長した方について、本人や家族から話を聞き、多動症や乳歯が生え変わらない、骨の異常、性染色体異常に産道発育不全など、動物実験で明らかにされた環境ホルモンの影響と何ら変わらない症状がでていることがわかっています。
瀧井氏の講演の中で、血中のPCB濃度が高い方が糖尿病になるリスクが高くなるという報告があると言われていました。生活環境だけで子どもたちの育ちが脅かされるものでしょうか。多かれ少なかれ、私たちの身の回りには多くの化学物質が使用されています。そしてその影響は動物だけでなく、人間にも確実に魔の手を伸ばし、次世代への影響を与えているのではないか、そのような恐ろしさを感じた今回の講演でした。
(子どもプロジェクトチーム・磯部起世子)
|