| 有害化学物質の遺産を次世代に残すな−SAICM−
WWFジャパン 化学物質プログラム担当 村田 幸雄
神さまおねがいです、わたしたちが大人になるまでの間に、わたしたちや野生の生き物たちのけんこうが化学物質によって害される心配がなくなる世の中にしてください。 (ぱんだ けみこ 6さい)
そんな願いにあなたは何と答えますか。「そうなったらいいわね、でも化学物質を造ったり、規制したりする立場の人たちはそんな夢みたいなこと本気で取り合うはずないわよ」と諭しますか。驚かないで下さい。実は国際社会がまさにその願いに正面から応えようと数年間にわたり取り組んでいたのです。そして本年2月に世界各国の政府、関係機関、NGOなどがドバイに集い、ついにその答がまとめられました。それが「SAICM」(サイカム)と呼ばれ、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)、国際労働機構(ILO)にも承認された極めて影響力のある国際的合意文書です。
ほとんどの人がこのことを知らなかったとしても、無理ありません。これほど画期的な大ニュースであるにもかかわらず、日本のほとんどのマスメディアは取りあげませんでした。彼らもそんな夢みたいなこと・・と思っていたのかもしれません。
SAICMは正式には「Strategic Approach to International Chemical Management(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)」と称されます。これはそもそも2002年のヨハネスブルグサミットで採択された実施計画に明記された「2020年までに、化学物質が人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産される」という目標を達成するための具体的道しるべとして策定された文書です。
SAICMは次の3つの文書で構成され、詳しくは環境省のホームページで見ることができます。ここではそれぞれの文書の中で、私が特に関心をもった部分のいくつかを紹介します。
@「ドバイ宣言」:各国のハイレベル閣僚等による政治宣言で基本認識や取組に対する決意など30項目にわたり述べられている。( )内はパラグラフ番号
・「……社会の化学物質管理の方法において根本的な改革が必要」(7)
・「……社会の全ての部門にわたる透明性、公衆参加及び説明責任によって、効果的かつ効率的な化学物質のガバナンスに向け取り組む。」(18)
・「……子供たちや胎児を、彼らの将来の生命を損なう化学物質の暴露から守ることを決意する。」(24)
A「包括的方針戦略」:本取組の対象範囲、必要性、目的、財政的事項、原則とアプローチ、実施と進捗の評価などの基本的な方向や枠組みが定められている。
IV 目的
・「……リオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法を適切に適用すること」
・「化学物質の安全性に関する規制と意思決定の過程に、市民社会のすべての部門……意味ある積極的な参加を推進、支援すること」
VII 実施と進捗の評価
・「すべての関係する国の部門や利害関係者の関心事項が代表され、すべての関連する実質的な領域が対処されるよう、省庁横断的・組織横断的なSAICM実施のための仕組みを確立すべきである。」
B「世界行動計画」:その中心をなす表Bには民間を含むそれぞれの関係者が具体的に取るべき行動が、その時間枠や評価指標などと併せ、273参項目にわたりリストアップされている。
・ナショナルプロファイルと国家SAICM実施計画を策定すべき(No.1、166)
・子供たちの環境からの健康影響に関する国家的な初期リスク評価を行い、優先される懸念を見つけ出すガイダンス資料を作成。さらに優先される懸念に対処する行動計画を策定、実施すべき(No.7)
・化学物質を使用しない方法を含む、代替的で生態系に配慮した農業の実践の訓練を提供すべき(No.51)
・非常に毒性が強く、難分解、高蓄積の有機化学物質についての安全で効果的な代替物質の使用を、化学物質を使用しない利用を含め推進すべき(No.54)
・市民社会の代表者をSAICM実施計画の立案、実施、モニタリングを行う政府委員会に含めるべき(No.206)
SAICMは魔法の文書ではありません、それが存在するだけでは社会は何も変わりません。地域、国、国際レベルのそれぞれにおいて、市民団体を含むすべての関係者が参画し、具体的な行動計画を策定し、実施し、進捗を評価することが重要です。私たちとしてはまず国に日本のSAICM実施計画策定を求めることから始めるべきでしょう。さあ皆さん、一緒に取組ましょう。冒頭の「ぱんだ けみこ」ちゃんが成人になるまで、あと14年しかないのです。
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