総会記念フォーラム 第1日目 分科会
「徹底検証:アスベスト対策のあり方を考える」
<身のまわりのアスベスト問題>
環境監視研究所所長 中地重晴氏
アスベストとは珪酸塩の鉱石で、白石綿、青石綿、茶石綿があります。アスベストは、繊維状で紡績性があり、耐熱性に優れているため、消防士の消防服などに使用されていました。日本では、1930年に使用を開始し、最初の消費のピークが70年代の前半頃に、バブル経済による建設ブームが進む80年代後半に2番目のピークが来ました。日本においては、アスベストの用途として、石綿工業製品・輸出向けの製品からアスベスト含有建材に遷移してきましたが、これは、日本特有の問題であるといえます。日本には、パイプの周囲の保温材などの吹き付けアスベストのほか、洋瓦、波型スレートなどの様々なアスベスト含有建材が4000万トンくらいあるといわれています。
アスベストは、アスベスト肺や肺の外側の胸膜や腹膜などに悪性中皮腫を発生させるという健康被害を生じさせます。悪性中皮腫の潜伏期間は平均30年くらいであり、現在、悪性中皮腫で毎年約1000名の患者が亡くなっています。そして、今後、2030年には現在の約4倍の年間4000人の死者が出る可能性もあると言われています。
日本は、アスベストが安全に管理使用できるとして、1986年に採択された青石綿・吹き付けを禁止するILO条約をずっと批准しませんでした。1987年にいわゆる学校パニックが発生するなどして、一時は市民の関心も高まったのですが、その後沈静化してしまいます。しかし、2005年6月、過去に78名もクボタの社員等が肺がんや中皮腫で亡くなったことが報道され、再びアスベストに対する関心が高まりました。クボタは、青石綿の輸入量のうちその約10%を加工していたのですが、工場の周囲において、中皮腫の発生率に関し、疫学的にも有意な結果が出ています。
現在、行政も吹き付けアスベストがどのような場所に、どれくらいあるか分かっていません。アスベストには、大気の環境基準はなく、排出規制値についても安全な基準ではありません。また、アスベストは、代替品があるにもかかわらず使用されてきたという問題があります。このように現在のアスベスト対策は不十分で、今後の対策としては、吹き付けアスベストの除去の徹底や建材・製品のアスベスト使用の有無の確認と表示の義務付け、作業環境基準や排出基準の引下げが必要です。また、被害者対策についても、現在検討されている対策法案では補償が十分でないため、この改善も必要であると考えます。
<被害の実情>
中皮腫・アスベスト疾患患者と家族の会 齊藤文利氏
私は、35年前から住宅や店舗の天井裏などで電気配線工事作業を行っていましたが7年前に肺がんであることが分かりました。その後、手術で右肺を摘出しましたが、普段の生活においてすら、自分の呼吸が苦しい状況です。
その後、健康保険組合のレセプト調査で、ひまわり診療所の名取先生に聞き取りを受けた際に、建築関係の仕事であれば、アスベストが原因の可能性もあると指摘され、摘出した肺の一部を調べてもらったところ、アスベストが原因であることが分かりました。私は、石綿は知っていたのですが、アスベストは、その言葉も怖さもまるで知りませんでした。そして、2003年、肺がんに気付いてから4年後に、やっと労災認定を受けたのです。
私は、病院から自分の肺がんの原因がアスベストであることを教えてもらえなかったものの、周囲の人に恵まれて、それが分かり、労災認定を受けることができましたが、アスベストが原因であることを知らないままの肺がん患者は沢山いると思います。
そして、昨年の2月には「中皮腫・アスベスト疾患 患者と家族の会」が発足しましたが、クボタ問題が発覚してからは注目を浴びるようになり、尾辻前厚生労働相に対しても、治験中の新薬の抗がん剤を速やかに承認して欲しいなどの要望を伝えています。
中皮腫は、肺に水が溜まるなどの症状が出ないと気付かないことが多いのですが、病気の進行が早く、そうして気付いたときは手遅れです。この1年で14人の仲間が死亡しています。
現在、アスベスト肺の診断ができる病院が少なく遠距離の病院に通う患者も多いという問題があります。国はアスベストの使い方を誤らなければ問題ないと言い続けてきたのですから、その責任を取って、医者へのアスベストに関する教育の徹底や、研究体制・診断体制を確立するよう強く希望します。また、患者やその家族の悩みが相談できる窓口の増設、遠距離の病院への交通費の完全な支給なども必要であると思います。
<政府の過去の対応の検証・自治体の対策>
化学物質問題市民研究会代表 藤原寿和氏
私は、東京都の公害局大気規制課に1986年から1989年まで勤務していましたが、当時、米国空母のアスベスト除去工事や学校パニックなどにより、アスベストの危険について市民の感心が高まっていました。私は、アスベストの排出源調査として、葛飾区と足立区の工場の調査をしましたが、老人や女性が防塵マスクなしでアスベストを吸引する危険がある作業を行っていました。
当時、行政サイドでは作業環境中でのアスベスト濃度などは分かっていません。労働基準監督局の立ち入り検査もありませんでした。公害局としても、大気環境中の濃度調査を目的としていたためヒアリングのみで、労働基準監督署が管轄する労働環境基準には触れられませんでした。
古くからアスベストの有害性は認識されていたにも関わらず、政府は十分な取り組みができていません。たとえば、1987年に学校パニックが生じても、アスベストの除去・封じ込め対策のための法令改正はなされませんでした。また、廃アスベストの処理についても、1992年の廃棄物処理法改正までは、吹き付けアスベストをセメントで固めて二重のゴミ袋に入れれば安定型処分場に捨てることができました。現在でも、廃棄物に対する規制等が十分ではなく、現場に対するフォローもなされていません。解体された建築廃材のアスベストがどこに埋め立て処分されているのか実体は分かりません。
自治体においてアスベスト対策の条例を策定しているところもありますが、国の手足となって事業所を指導する自治体の体制作り・連携が十分になされなければ、アスベスト問題の解決は難しいと考えます。
<国民会議のアスベスト提言について>
国民会議事務局長・弁護士 中下裕子
アスベスト問題について、行政の規制の遅れが被害を拡大しました。何度も問題提起があったにも関わらず、現在でも十分な対応がないため、今こそ早期抜本的対策をとるべきといえます。そもそも対策の遅れは、アスベストが安全に管理可能だと主張する産業界の容認する者をアスベスト対策の検討会の座長に据えようとすることからも分かるとおり、産業優先の姿勢と人命軽視の意思決定の2つが原因です。産業界も人命を軽視する企業が存続しえないこと、人命への配慮こそが産業を守ることを理解して欲しいと思います。そして、アスベストを含む化学物質問題は各省庁間にわたる問題であるため総合的な対策を立てる必要性があり、そのための基本法が必要です。
アスベスト対策は、内閣府に関係省庁による対策会議・諮問機関としての対策委員会を設立し、被害者代表も含む多様なステークホルダーにより意思決定されるべきです。被害者救済については、労災の給付内容の再検討のほか労働者の家族に労災に準じた補償の確保が必要であり、その財源は、アスベストにより利益を得た業界から徴収すべきと考えます。そして、新たな被害者の防止の観点から除去年限を定めて使用中のアスベストの廃絶を行うべきであり、廃棄について、すべてのアスベストを特別管理産業廃棄物とし、また、EPRの観点から製造業者に回収義務を課すべきです。
先般、政府が使用中のアスベスト対策をとることが報道され、私たちの意見が反映されて少しずつ前進したと考えていますが、これに安心することなく、今後も粘り強く意見を言い続ける必要があると考えています。
〔伊達雄介記〕
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