総会記念フォーラム 第1日目 分科会
「重金属はどのように体内に溜まるか?―人体の重金属汚染の基本を考える」
講師:国民会議代表、愛媛県環境創造センター所長 立川 涼氏
重金属汚染の基本を理解する
PCBなど人間の活動の結果でのみ生産される汚染物質と異なり、重金属は天然にも存在し(天然賦存量)、その上人間の活動により生産される汚染が加わるという特徴をもっている。環境(空気、水、土壌)中の重金属が、野生生物の餌に取り込まれ、野生生物の体内に濃縮される過程には、餌にどういう形で蓄積するか(蓄積特性)、餌中の重金属が消化器系で、どのくらい吸収されるか(吸収効率)が問題である。蓄積特性として、重金属は、元素ごとに複数の原子価を持つことが多く、また、蛋白質などと結合して多様で複雑な存在形態を持ち、毒性も存在形態で異なることから、存在形態毎の分析が必要であるが、これは多くの場合未解決の問題である。また、消化管での重金属の吸収率も明確でない場合が多い。
たとえばアルツハイマーの原因になるといわれているアルミニュームは、胃内の酸性の環境で水溶性となり、腸管内での、アルカリまたは中性の環境で不溶性になって極端に吸収率がさがったりする。全体としての吸収率には定説が無く、10〜20%などといわれている。カドミウムは、イタイイタイ病の原因とされているが、ほとんど消化管では吸収されず吸収率は数%以下と考えられる。また、餌が何であるかにより吸収率は異なる。骨の多い小魚では、吸収率は悪く、イカでは高くなる。イカ食の哺乳動物では、カドミウム濃度が高いことが知られている。餌中の有機塩素化合物はほぼ100%吸収されるが、餌中の重金属は、そのまま取り込み量や蓄積量にはならないことが特徴である。
重金属の組織分布
重金属は生体内に一様に分布するのではなく、その元素に応じた、特異的な蓄積部位があるのが普通である。水銀は、肝臓に高濃度に蓄積され、カドミウムは腎臓に蓄積される。水銀は、生物種に関係なく、分布していて、食物連鎖の高次動物ほど水銀濃度は高くなる。カドミウムは、イカやオキアミなど、特異的に蓄積する生物種があるため、食物連鎖数だけでなく、何を餌にするかによっても蓄積濃度に差がでる。
人体への影響を考える時は、可食部といった組織毎の重金属量がたいせつであるが、そればかりではなく、餌全体の存在量(負荷量)も特に野生生物には重要な情報である。そうでなければ、毒性影響の重大な点を見逃してしまう。
一部の例外を除きプランクトンや魚類は水汚染を直接的に反映する。一方、生態系の上位に属する哺乳類や鳥類では、生物側の諸条件によって生物蓄積は様々に変化する。鳥類では、産卵、換羽、渡りなどの過程で、短期間にある種の化学物質の劇的な取り込み、排泄、体内移動がおこる。
重金属蓄積の年齢変動
様々な種特異的生物過程を経由して、動物体内の重金属量と組織別の濃度は年齢と共に変化する。一般に鉄、銅、亜鉛など必須金属などでは、ホメオスタシスのため、若令期を除けば濃度は一定である。一方、非必須のいわゆる有害金属は加齢とともに上昇するのがふつうである。
図1は、海産哺乳動物(イルカ、クジラ、アザラシなど)のカドミウムと水銀の加齢変動を一般化したものである。カドミウムは全く胎盤を通過しないので胎児への移行はない。授乳による移行もほとんどない。乳児期を終えて、独自に魚介類を捕食するようになると体内のカドミウム濃度は上昇しはじめる。このときイカを主食とする哺乳類では濃度の上昇がいちじるしい。成長期には、カドミウムを摂取しても、体長や体重が増加していくので、濃度上昇はゆるやかである。成熟期には体長の増加は止まり、体重増もあまりないので、餌からの摂取がそのまま体内濃度の上昇につながる。
鳥類では換羽による影響が大きい。鳥類では年齢判定法がないため、年齢変動は明確にできないが、水銀では、換羽による排泄のため、年齢蓄積が認められないことがある(後述)。
カドミウムは換羽による影響を受けないので、鳥体中の濃度は年齢と共に上昇する(図2)。
種特異的な生物過程における重金属の動き
渡りは、種特異的であるが、渡りに際して、鳥たちは、休憩中に餌から多くの重金属を取り込む。飛行中は、絶食状態で、脂肪をどんどん燃やし、体重が減少する。したがって体中の重金属は飛行中に濃縮される。
換羽による影響も重要である。トビの例では、6月に換羽が始まり、10月ごろ終了する。そのとき、それまで主に筋肉に蓄積していた水銀(有機)は、換羽時に生じる羽への血流によって羽に運ばれる。換羽がすすむと筋肉など体中の水銀濃度は次第に低下する。10月に換羽が完成すると羽への血流は途絶え、餌から取り込んだ水銀は翌年の初夏まで、体中に蓄積され続ける。毎年換羽により大量の水銀が排泄されるため、トビでは、水銀の蓄積は一定値にとどまり、年齢による上昇傾向は認められない(図2)。換羽の順序や初列風切羽の位置や胸毛など部位による重金属の濃度の変化を測ることは鳥類にたいする毒性影響のみでなく鳥類の生態を知るのに役立つ。
得られた情報をどう見るか
野生動物の生態から得られた知識はまだまだ少ない。人間活動のない自然状況でバックグラウンドの重金属の分布がはっきりしないと、汚染の有る無しや、汚染の強度を決めることは簡単ではない。高濃度の汚染はともかく、重金属の長期微量の汚染とその毒性影響を議論するのはむずかしい。
かぎられた知識はまた、視点により見え方が異なることにも注意が必要である。部分的な科学的正しさが全体では間違っていることがあるからだ。さまざまなメディアの出す情報が、国民の側か企業の側か、どちらの側を向いているか知ることもたいせつである。研究費の大半が製薬会社から出てくることから、研究費の出所を明らかにすることを著名な科学雑誌が要求するようになってきている。化学物質の毒性のリスクアセスメントは、企業の側を向いているものが多い。マスメディアも自己規制している。国民の側に立ったリスクアセスメントとそれを発信する自前のメディアが必要であろう。 〔武田玲子記〕
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