ニュースレター 第37号 (2005年11月発行)
公開学習会
「日本の米は大丈夫?――米のカドミウム汚染」

2005年7月30日(土) 東京・青山「環境パートナーシップオフィス」にて
講師:元東京都健康安全研究センター主任研究員 小野塚春吉さん

 現在、コーデックス委員会*で国際基準値つくりが進められている食品のカドミウム汚染、特に日本にとっては最も重要な、米のカドミウム汚染について、東京都で長年にわたり都内搬入米の検査に従事してこられた元東京都健康安全研究センター主任研究員の小野塚春吉先生にお話を伺いました。
 水銀と同じ重金属であるカドミウムの予備知識から始まって、人体汚染、米などの汚染実態、その原因、国際基準値をめぐる動き、日本政府の対応についての問題点まで、米のカドミウム汚染についてお話を伺うことができました。以下にその概要を簡単にお知らせします。

1.日本人のカドミウム摂取量は高い
 カドミウムは水銀と同じように人体にとって全く必要のない重金属の一種です。生涯にわたり摂取しても健康に影響がないだろうとされている量として、暫定耐容週間摂取量が7μg/kg(体重)と国際的に評価されています。日本人の平均的な週間摂取量は4〜5μg/kg(体重)で、世界的にみてかなり高く欧米の2、3倍になります。中でも東京の人の腎皮質中カドミウム濃度が世界でもっとも高いレベルにあるというデータもあります。おそらく、東京より東の地域は相対的にカドミウム汚染地域が多く、東京に搬入される米はこうした地域のものが多いからだろうと推測されています。毎日食べる米などの食品から摂取したカドミウムはその約半分が腎臓に蓄積し、生涯累積摂取量が2000mg(2g)を超えると腎障害を起こし、さらに蓄積が進むと骨軟化症・骨粗しょう症を発症し、最終的にイタイタイ病になります。また、発がん性があり、環境ホルモン作用も疑われています。

2.カドミウムは食物、特にお米、から
 身体に入るカドミウムの90%以上が食物由来であり、そのうち米が約50%を占めています。次いで野菜・海藻15.7%、その次が魚介類15.3%などとなっています。日本における米中カドミウムの基準値は食品衛生法で1.0ppmとなっていますが、食糧庁が流通基準値として0.4ppmを定めています。しかし、実際には0.4ppm以上のいわゆる「準汚染米」の流通が懸念されます。その理由は、生産者サイドにおける出荷前の検査態勢がきわめて弱いことです。また自治体の中で消費者サイドから継続してチェックをしているのは東京都(年間約600検体)と大阪府(同約20検体)だけです。
 その東京都の検査(小野塚:1981〜2002年)によると、図からも読み取れるように、0.01ppm より濃度の低い米の割合は年を追う毎に減ってきています。逆に、それより高い方では年を追う毎に割合が増えています。昔に比べると、きれいな米は減ってきており、米のカドミウム汚染は進行しているといます。
 その他の食品については、魚介類ではイカの内臓(塩辛)や貝類の内臓、特にホタテ貝のウロ(中腸腺)は注意が必要です。また、大豆もカドミウム濃度が割と高く、農水省の調査では0.2ppmを超えるものが全体の16.7%もあります。大豆は、コーデックス委員会の基準値つくりから「主要な摂取源ではない」との理由から検討が中断されましたが、日本人の食生活では重要な位置を占めており、日本独自で基準を設定するなどの対応が今後必要かと考えます。 

3.なぜ日本の米のカドミウム濃度は高い
 農水省の調査によると米の年間生産高のうち0.2ppmを超える米が3.3%、0.4ppmを超えるのが0.3%で、その他の農産物も概してカドミウム含有量が高くなっています。その原因は農耕地が汚染されており、日本中どこへ行ってもカドミウム汚染地帯があるからです。日本では昔から全国各地で亜鉛や銅の鉱山が多数開発され、カドミウムが環境に放出されてきました。そうした鉱山や製錬所などから流れ出た廃水や排煙に含まれるカドミウムが耕作地を汚染してきたからです。イタイタイ病で有名な神通川流域の汚染はその典型例です。

4.もう一つの汚染源?ニッカド電池
 1990年代以降、日本は、世界一のカドミウム消費大国になりました(2004年は、4816トン、世界の25.4%、世界第二位)。その最大の用途はニッカド電池(90%以上)です。現在、使用済みニッカド電池もようやく業界に自主回収するよう義務付けられましたが、回収率は低く30%台に留まっているようです。一部は普通ゴミと一緒に焼却されていると思われます。1970年代の調査ですが、ゴミ焼却所周辺で作られた米から1ppm以上の「汚染米」が少なからず見つかっています。今後、こうした地域の汚染調査が必要であると同時に、早急に回収率100 %を目指した回収ルートの構築が必要と思われます。

5.米の基準値――日本政府の対応
 コーデックス委員会では、2004年3月に日本政府がコーデックス委員会の基準値案0.2ppmを0.4ppmに緩和する修正案を提出し、その結果基準値案が緩和されました。しかし日本政府が提出した「意見書」には、重要な問題点が含まれています。論拠とした論文の使用方法等に問題があり、また「非汚染地から0.4ppmの米が取れる可能性がある」などと、到底考えられない数値を根拠とするなど、今後に問題を残しました。
 暫定耐容週間摂取量を7μg/kgとし、日本人の食生活から基準値を試算(小野塚)すると0.16ppmとなり、変更前の0.2ppmはむしろやや高めの値です。
 また、日本における疫学調査によれば0.1〜0.2ppmが米の基準値として妥当であるとされていることからも、日本政府の対応には問題があるといわざるを得ません。
 毎日食べている米などの食物から体に徐々に蓄積し、健康被害として顕在化してくるカドミウム汚染。「国民の健康を守る」という基本的な立場から、日本政府の「前向き」な対応が望まれます。
*コーデックス委員会:FAO/WHO合同食品規格委員会の通称名

 

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