ニュースレター 第37号 (2005年11月発行)
国際シンポジウムDioxin 2005雑感

愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授 田辺 信介

 2005年8月21日〜26日の間、カナダのトロントで、ダイオキシン国際シンポジウム(DIOXIN 2005)が開催された。今年のシンポジウムは第25回目の区切りの年ということで記念大会として企画され、過去のシンポジウムとその研究成果を回顧した書籍の出版、Hutzinger教授やRappe教授など初期の功績者への労い、セッションサマリーの冊子配布などオーガナイザーによるさまざまな工夫がなされ、これまでにない盛況であった。
 今回のシンポジウムは41カ国から1,160人の参加があり、過去最高の登録者数であった。参加者の国別内訳(下図)をみると、カナダ(24%)と米国(20%)でおよそ半数を占めた。日本からの参加者は144名で全体の13%を占め、依然としてダイオキシンおよび類縁化合物に対するわが国研究者の関心は高い。しかし、途上国からの参加者は少なく、この原因は登録料が高いこと、テロの影響で入国ビザの取得が容易でないこと、などが考えられる。プラットフォーム(口頭発表)は79セッション398演題、ポスターは2セッション420演題で合計818題の研究成果が発表され、この数もこれまで最高であった2003年のボストン(米国)大会(総演題数734)を上回った。また、企業、出版社、スポンサーの展示ブースも過去最高の40を上回り、ホームページへのアクセスヒット数は170万を越えたそうである。
 8月22日のオープンニングセレモニーでオーガナイザーの一人Dr. Mehran Alaeeは、「ダイオキシン対策が効果を発揮し世界の環境中ダイオキシン濃度は低減しているが、ダイオキシンシンポジウムの参加者は増えている」と、予想外の事態に喜びを述べた。この「遅れ現象」は、ダイオキシンおよび類縁化合物が根の深い新たな問題を生起していること、すなわち科学的課題が未だ山積しており研究者のさらなる英知が求められていることを示している。事実、今回のシンポジウムでは、多様なダイオキシン類縁化合物が地球を巡り北極圏に到達していること、途上国にも大きなダイオキシン類の発生源があること、胎児・新生児などハイリスクライフステージへの影響が懸念されること、新規環境化学物質の登場と汚染の拡大など、科学的知見の集積と対策を必要とする問題が多数報告された。
 ダイオキシンシンポジウムは、1980年にイタリアのローマで第1回大会が開かれ、以降1983年を除いて毎年開催されてきた。これまでにヨーロッパで12回、北アメリカで10回、アジアで3回開催されている。25年間の総参加者数は16,000人以上、口頭発表は9,000件以上、要旨集“Organohalogen Compounds”に掲載されたこれまでの論文の総ページ数は約30,000ページ、国際学術誌“Chemosphere”の特集号に掲載された論文は約15,000ページと報告されている。これらの数値および様々な過去の記録を塗り替えた今回の大会は、格別の重みがある。
 私はここ数年、ダイオキシン問題を取り巻くわが国一部各界の意見に疑問を感じてきた。進むべき道がどこかの段階から妙な方向へと向いてしまったからである。しかしダイオキシンシンポジウムの参加者、少なくとも世界の研究者の見識は異なるようである。今回のダイオキシンシンポジウムに参加して、「予防原則がなかなか定着しない日本、一方で予防原則を前提として考究する先行世界の存在」を感じた。「ダイオキシン問題は終わった」とする見解は世界の環境研究の趨勢に反しているが、科学の枠におさめきれない新しい知が生まれていることも事実であり、科学技術の外側にある活動との連携すなわち科学と社会の融合研究を一層推進する必要がある。
 2006年のダイオキシンシンポジウムはノルウエーのオスロで開催されることが決定している。また、2007年は東京での開催が予定されており、身近で世界のダイオキシン研究の熱い風に吹かれることが可能になりそうである。

 

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