未来世代のためのシンポジウム
「化学物質の人の汚染――ヨーロッパと日本」報告
2005年6月25日 JALビル「ウィングホール」にて
PCBは、環境や食べ物を通じて私達の体内に蓄積していることが知られています。PCBが、未来世代に悪影響を与えうる化学物質であることは周知の事実でしょう。では、私達の体内には実際どの程度のPCBが蓄積しているのでしょうか? 危険性はわかっていても、その汚染の実態は簡単に手にとって見ることが出来ません。この見えない体内のPCB汚染の実態を測定しようという調査研究が「NPO法人次世代環境健康学センター」(以下、センター)によって行われ、その結果が「未来世代のためのシンポジウム」で発表されました。
センターによる血中PCB濃度の調査研究
センターは、人や胎児における化学物質暴露と、それによる健康影響の調査研究を行い、化学物質汚染を一般市民に情報提供するとともに、汚染影響の判定方法や予防法を確立していく取組みを行っているNPO法人です。予防医学的なアプローチによって、化学物質の影響が最も深刻な次世代(胎児、新生児・乳幼児)を化学物質汚染から守ることがねらいです。センターの理事長を務める千葉大学大学院医学研究院教授の森千里さんは、ダイオキシン・環境ホルモン国民会議の副代表でもあります。
今回の調査研究は、センターの活動の一環として、2005年の3月から5月の期間に実施され、20代から60代までの日本人男女(合計145名)の血中PCB濃度が測定されました。測定方法は、カネミ油症患者にも使われたパックドカラム法というものです。その結果、発表された血中PCB濃度が以下の図です。今回の調査結果では、男女とも、年齢とともに血中PCB濃度が上昇していました。また、出産経験が含まれる30代以上は、女性の方が男性より濃度が低くなる傾向が見られました。ただし、今回の調査は人数がそれほど多くなかったため、出産によって血中PCB濃度が減ったとまでは統計的に解析することができませんでした。また、食事に関するアンケート調査も同時に行われましたが、食べ物による血中PCB濃度の影響に関しても、今回の調査とアンケートだけでは関連性を指摘することが難しいとのことでした。統計的な精度を上げるには、まだまだデータが不十分で、さらに多くのデータを継続的に集めていく必要があるとのことでした。
「未来世代のためのシンポジウム」報告
では、この血中PCB濃度の調査結果を受けて、私達はPCBなどの化学物質に対していかに取り組んでいけばよいのでしょうか。その手がかりを考えるために、次世代環境健康学センターと世界自然保護基金(WWF)ジャパンの主催、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議ほか、団体、個人らの支援によって開催されたのが今回のシンポジウムです。
このシンポジウムでは、まず、センターの森理事長が、今回の調査の意義について説明しました。次に、WWFジャパンの村田幸雄さんが、ヨーロッパにおける人の化学物質汚染調査結果について、センターの事務局長の深田秀樹さんが、今回実施した日本人のPCB暴露調査の結果について報告しました。また、今回の調査研究には複数の国会議員も血液を提供したため、その中から民主党の小林憲司衆議院議員と自民党の山東昭子参議院議員がコメンテーターとして出席しました。続いてパネルディスカッションでは、センター理事長の森さんとWWFジャパンの村田さんに加え、黒田洋一郎さん(東京都神経科学総合研究所)、中下裕子さん(国民会議事務局長)、粟谷しのぶさん(大学院生)がパネリストとして出席し、今回の血液検査結果を今後いかに生かすか議論しました。
パネルディスカッションでは、黒田さんの報告により、PCBが人体に与える深刻な影響が改めて確認されました。黒田さんは、長年の研究をもとに、PCBをはじめとする環境化学物質が、脳の発達に影響を与えることを指摘しました。今、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの軽い脳の発達障害をもっている児童は日本の全児童の6.3%に上るといわれています。子どもの脳の発達障害には、化学物質だけでなく家庭や学校などの社会環境にも原因があると考えられますが、化学物質に関して言えば、PCBなどの環境化学物質は、特に胎児期や乳児期に子どもの脳に侵入し、脳の発達を阻害するとのことです。そのような化学物質の特性を考えれば、黒田さんが指摘するように、「出産前の体内の化学物質の濃度を減らすことが必要」であることは疑いがありません。
また、国民会議の中下事務局長は、日本のPCB対策がまだまだ発展途上であることを指摘しました。1972年にPCBが製造中止になったにもかかわらず、既存のPCB含有製品は継続使用されているため、環境中にはまだ多くのPCBが存在しています。特に、魚介類をはじめとする食品経由の化学物質汚染が深刻な問題になっています。化学物質の次世代への影響を減らすためには、日常的に食べ物に気をつけていかなければなりません。中下事務局長は、欧米では既に政府が化学物質に関する食品基準値を示しており、日本でもそのような国の積極的取り組みが必要、と訴えました。
次世代環境健康学センターによる血中PCB濃度の測定は、一般の人が、化学物質という目に見えないリスクを数値で知り、今後の行動に結び付けていくための第一歩として、意義ある取り組みです。センターは次のステップとして、環境化学物質が人体に与える影響について教育現場や企業などに情報提供できる「環境健康学トランスレーター」の資格を創設しました。その資格取得のための講座が9月から開講される予定です。私達一般市民が自分たち自身で化学物質のリスクを減らしていける仕組みづくりが、今まさに始まったと言えます。
☆さらに詳しく知りたい方はこちら
次世代環境健康学センター(シンポジウムで配布された抄録をダウンロードできます)
URL:http://jisedainpo.hp.infoseek.co.jp/symposium/symposium01.html
世界自然保護基金(WWF)ジャパン(有害化学物質関連)
URL:http://www.wwf.or.jp/toxic/index.htm
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